ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: アブセントアブソリュート ( No.4 )
- 日時: 2011/09/18 22:55
- 名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)
始まりはいつも突然。
世界の狂うのは必然。
絶対なんて言葉は、絶対存在しない。
それが、世界の掟だから。
そして、世界は——始動する。
第1章:始動
セオ・ノーヴェルが騎士になれない理由。それは簡単な理由だった。
騎士にとって、それは致命的とも言えなくもない。守るということを成し得る為には避けては通れないだろう。"人を殺める"ということは。
セオは、人を殺すことが出来ない。体というより、心がそうさせる。人は殺さない。それはポリシーでもあり、セオの心の傷の証明ともいえた。
人を殺せない。それだけで騎士になることは出来ない。敵を殺さなければ、再び守るべき人を危険に晒すことになる。それは、騎士として当たり前のことであり、成せばならぬ絶対条件だった。
それだけ、騎士にとって敵を殺さないままにするというのは危ないことなのだ。
「分かってるんだけどなぁ……」
セオは嘆息しながらも要塞の中を歩いていた。今からまた都市に戻ろうとしても、夜を跨がなければならないのは確実だったので、要塞に泊まることとなった。
ノーヴィル、という名前は表向きで、実際の人を殺せないと分かると、周りの態度は一変する。
「あんさん、人を殺せねぇのか」
つい先ほどまでは怯えていた衛兵がニヤニヤと笑いながらセオに向けて言った。英雄の養子とはそんなものか。そういう風に言われる。それは落ち零れという烙印を押されるのと同じことだった。
「まあ、そうですね」
歩いている最中に会ったその衛兵に答えた。すると、衛兵は面白がるように笑う。
「おい、何してるんだ?」
「うっ、シューズ隊長……いらしてたんですか」
衛兵が笑っている後ろで、いつの間にかシューズが立っていた。笑顔ではなく、至極真面目な顔で衛兵を見下していた。
「早く持ち場に戻りやがれ」
「は、はぃっ!」
セオを面白がっていた衛兵達は急いで持ち場へと戻っていく。その様子を見て、シューズはため息を吐き、セオに向けて「悪かったな」と言葉を漏らした。
「いえ、慣れてます。騎士志願のクセに、人を殺せないなんて……そもそもが間違いですから」
セオの言葉に、暫く口元に手を置き、シューズは黙り込んだ。そして、ゆっくりと唸りながら口を開いた。
「うーん……是非、俺としてはお前を騎士にしてやりたい。いや、お前は騎士に向いているというか、騎士しか無いと思っている」
「はは、お世辞ですか? 気持ちは嬉しいですが、シューズさんも俺が人を殺せないと知っていたから断ったんでしょう?」
セオがそういうと、シューズは途端に真面目な顔になり、
「いや、それは違う」
と、それだけ告げた。それから暫くシューズは少し困惑の表情を浮かべているセオに顔を向けていたが、すぐにいつもの陽気な笑顔に変わる。
「まあ、気にするなっ! お前はお前のやりたいことをやればいいんだからな!」
「いたっ、痛いですって、シューズさん!」
笑い、話しながらシューズはセオの背中をバンバンと大きな手で叩く。それを嫌がるセオを見て、シューズはただ笑い、
「よしっ! 今日は飲むか! 久々にあったことだしなぁ!」
「飲むって、お酒ですか?」
「当たり前だろう。ほらっ、行くぞっ!」
「って、ちょっと待ってください! 俺、酒飲めないんですよ!」
「ははは、そんなこと知るかぁ!」
シューズはセオの手首をしっかりと握り締めると、そのまま人攫いのようにして引っ張って行く。
セオが抵抗するのも虚しく、次第に諦めがついたセオはそのままシューズの部屋へと行こうとしたその時だった。
カン、カン、カン!
要塞内に鳴り響く鐘の音が聞こえてきた。この鐘の音は、敵が来たことを示すための鐘の音。暫く使われていなかったせいか、酷く聞こえにくい形となってしまっていた。
「て、敵ですっ! 何者か分かりませんが、こちらに敵意を示しています!」
奥の廊下からすっ飛んで来た衛兵がシューズに伝令を伝えに来た。
話しを聞くところによると、相手は突然平野の奥に現れたのだそうだ。もう既に薄暗くなっているこの闇夜の奥から発見するに時間を費やしたそうだ。そして、ハッキリと分かった頃には、敵は弓矢やら武器を飛ばし、衛兵に傷を負わせたのだそうだ。
「成る程な……。こんな要塞に何の御用があるんだろうなぁ、おい。……すまん、セオ。お前と酒を交わすのはまた今度だ」
そう言ってシューズは奥の方へと走り抜けてしまった。衛兵は慌てた様子でシューズの後を追いかけて行ってしまった。
取り残されたセオの手には、先ほどまで強く握られていたシューズの温もりが残っていた。
「成すことを成す。成せば、人は何にだって成れる……!」
拳を作り、セオはそう呟いた。この言葉は、家族から教えてもらったもの。記憶にある、家族から。何度これによって元気が出たことだろう。前向きに駆け抜けられる気がした。
その瞬間、ボンッ、と外から聞こえたかと思うと、セオの方向へと巨大な火の弾が飛んで来ていた。
「うわぁっ!」
前へジャンプし、前転をして何とか避ける動作を行った。その時、火の弾が近づいてくる音がし、一気に破裂した。
破裂したことにより、爆風が巻き起こる。瓦礫が砕ける音がする。あまりの衝撃により、セオの体は前転した場所よりまだ先へと転がるようにして吹き飛ばされた。
「くっ……!」
耳鳴りがして、それと同時に熱さが辺りから感じられた。火が瓦礫の上にぶち当たり、瓦礫が黒く焦げ、その煙もまた酷かった。
「下は一体どうなってるんだ……?」
シューズたちが向かったと思われる一階の方が気になった。この3階には既に誰もいないようだ。最上階でもある此処は、よく前方の光景が見える展望台がある。
とにかく状況を把握しなければと思ったセオは、立ち上がるとそのまま展望台に向けて走り出した。