ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: こっち見んな ( No.2 )
日時: 2011/09/16 22:46
名前: カッカさぬ楽 ◆xH8pjI9WaE (ID: nWEjYf1F)

「シチューついできたよ」
男が言った。
「……どうも」
そう言って俺は、一応頭を下げておいた。
それにしてもおいしそうなシチューだ。最近シチューなんてめっきり食っていない。夢の中だってわかっていても食べたいような、不思議な魅力のあるシチュー。
スプーンを手にとろうとしたとき、男がふいに口を開いた。
「あのさ君」
「あ……は、はい」
くそぅ。もう少しで食べられたのに。
「俺がいない間に、女の子に会わなかった? 結構かわいい感じの」
高城ミサキに似てるあの美少女のことかな。そう思って、俺は
「見ました」
と言った。
「! どこで!?」
「え、ど、どこで……って、ここで、ですけど」
いきなり声を張り上げられたから、驚いて声が震えてしまった。
「くそ……あいつどこにいんだよ」
男の口調がいきなり荒々しくなり、夢の中と分かっていても鳥肌がたったような感覚に陥った。
「え、えっと……あ、あの」
「ん? あぁ、ごめんよ。気にしないでシチューを食べてくれ」
男は愛想笑いのようなものを顔に浮かべて言った。
「じゃあ、ご遠慮なくいただきます」
俺がそういった途端。

「だめえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえ!!」

すごい大声がして、右手に持っていたスプーンが地面に弾き飛ばされた。
「!?」
俺と男は同時に同じ方向を振り返った。するとそこには先ほどのミサキ(仮)が堂々と佇んでいた。
「その子から離れてくださいませ、ミスター」
そう言ってミサキ(仮)は、俺の向かい側のテーブルに座っている男をきつく睨んだ。
「……やっと会えたね」
そう言って、男はテーブルの上にあったフォークとナイフを手に取り、ミサキ(仮)に向けた。
「この少年が見つかったとなると、君はもう必要ないし、むしろいらない。消えてもらおうか」
「それはこっちの台詞でございます。さっさとその子にかけた術を解いてくださいませ!」
ミサキ(仮)はそう言うと、先ほどまで着ていた、淡い紫色の使用人風のドレスを脱ぎ捨てた。そして中に着ていたチャイナ服の袖をまくしあげ叫んだ。
「貴様の命はわたしが預かります、ミスター! とっと観念してぶっ倒れてくださいませ!」
そしてどこかに隠していたのであろう拳銃をぶっぱなした。
銃声。
銃声銃声。
銃声銃声銃声。
……えーと。
ここって夢の中なんだよな?
今、銃弾が明らかに頬をかすったんだけど……
気のせいだよな。
「ミスター! わたしはもう限界でございます! こんな暗い館に一生閉じ込められるのは!」
そう言うとミサキ(仮)は、男(ミスター?)の心臓に銃弾を命中させた。
「行きますよ春田マツキ! そしてそのシチューを食べてはなりません! ミスターがお作りになられた毒薬が混入しておりますゆえ!」

「そしてあなた様の人生の一億分の一ほどのお時間を少々頂戴いたします! 異論は残念ながら認めさせていただく時間がございません! とにかく今は貴方様の安全を第一に考えて、ここから遠いところに避難します!」
ミサキ(仮)が叫ぶその丁寧な言葉を聞きながら、俺はこう考えていた。

あぁ……今日の夢は長くなりそうだ……ってな。