ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: それはきっと愛情じゃない。 ( No.19 )
日時: 2011/09/27 23:16
名前: 柚々 ◆jfGy6sj5PE (ID: SAsWfDzl)

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 事前に取った休憩をあざ笑うかの用に汗を垂れ流しにさせて、地獄の万年坂を上り、トーマや佐久さんそれに水野さんと別れて。

 やっと、家に帰ってきた。
 家と言っても僕は住まわせてもらっている身。僕のお父さん役を買ってくれている伊南さんの家というだけで、僕はその一室を借りているだけ。
 伊南さんの家は、ドミノのよう如くここら周辺に立ち並ぶ住宅街の一つ。赤い屋根に白い壁。洋風な造りは外だけでなく中身もだ。本当に、こんな綺麗な家に僕なんかが住まわせてもらっていいのか未だに不安だが、それを伊南さんに聞く勇気もない。

 小学五年生の時に受け渡されたこの家の鍵を、ボストンバッグから取り出そうとチャックを開けて中に手を突っ込む。けれどそこから出てきたのは、先ほどいただいてきたハンバーガー店のレシート用紙。
 ああもしかして、鍵を部屋に置いてきたのだろうか。
 どうしよう、これじゃあ家の中に入れやしない。

「うそだ」

 絶望しきった自分の声が、無意識に口からこぼれる。
 伊南さんの帰宅時間を僕はいまいち把握しきれていない為、はっきりした時刻は分からないが、家の中に入れるのは——遅くて、推定午後十一時頃かもしれない。

 ああなんてことをしているんだ僕は。こんなことしたら伊南さんに迷惑をかけてしまうだろう。
 しかも今日の晩御飯を作る当番、僕じゃなかったっけ——本当にどうしよう、いつ帰ってくるか分からない伊南さんは、お腹をすかせているかもしれないのに。
 玄関の前で伊南さんの帰りを待っていると、きっとこの家の人に見えるよなぁ。それは避けたいなぁ。だって僕伊南さんの息子じゃないし。

「……ああそうだ」

 再びボストンバッグの中に手を入れ、今度は奥底から携帯を取り出した。この携帯は中学校に入ったお祝いとして伊南さんが契約してくれたものだ。

 スライド式の携帯である為、こうしてバッグの中に入れておくのは画面に傷がつかないか心配だ。けれど中学校に携帯を持っていくというルール違反をするには、こうしてバッグの奥底に眠らせておかねばならない。
 マナーモードにしていた携帯を起動させて、アドレス帳を開く。

 そして、伊南さんが帰ってくるまでに、アイツの家でお世話になろうと、アイツに電話をかけた。

「……ボンジュール」
『は? 何がポンジュースだって?』
「ボンジュールだっつってんだろ」
『……すみません』
「あのさ、今からお前の家行くわ」
『え? 嘘ですよね? ジョークですよね? フレンチジョークですよね?』
「そんじゃ、切るわ」

 プチッと気軽に通話を終了する。
 交渉は成立した。
 重い足を引きずりながら、僕はこれからトーマ宅へ向かう。


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