ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: それはきっと愛情じゃない。 ( No.21 )
- 日時: 2011/09/29 16:31
- 名前: 柚々 ◆jfGy6sj5PE (ID: SAsWfDzl)
- 参照: 私の尊敬している方との雑談を元に、会話文は構成されてます。
「なぁトーマ」
「なんだよ」
「今度さ、ももちゃんに告白しようと思うんだ」
「いいんじゃねーの?」
言いながら、トーマも僕同じくチューハイを飲む。けれど僕と違う所を挙げろとい言われれば、トーマは慣れた手つきでスローペースにチューハイを飲んでいるということか。
「桃瀬センセーを狙ってる男子生徒は、桐浜にはいっぱいいるしさ」
「そんなの、僕が許すわけ無いだろ。どれ、例を挙げてみろよ」
「えっとー、同じクラスの東方くん」
「誰だよ」
「同じクラスだって言ってるだろ」
「男?」
「そりゃあ男だろうよ。あと誰がいたかな……ああ、生徒会長とか」
「……えっと……待て、もう少しで名前が出てくるぞ…………」
桐浜中学校の生徒会長は、成績優秀だが運動音痴で、列記とした男だが、果てしないくらいの女顔だ。身長は僕とそうも変わらないと思う。
それで、生徒会長の名前。
アルコールによってほぐれてきている脳を活性化させて、記憶を穿り出す。あー分かった。そうだ、桐浜の生徒会長の名前は。
「鬼頭くんだ」
「……名前の方は覚えてるか?」
「さぁな」
「アズサだよ。鬼頭アズサ。更に女の子っぽいだろ? 女顔の会長にはぴったりだ」
「ふぅん。じゃあ今度見かけたら名前で呼んでやろう。それで、どうやって告白すればいい?」
「会長にか?」
「ももちゃんにだよ」
全力でトーマの足を蹴ったつもりだったが、上手く力が入らず、半ば空振った状態だったが一様膝に当たった。
トーマの体がふらつき、持っていたチューハイの缶から中身が少しだけこぼれた。けれど近くに置いてあった手拭ですぐさま拭き取る。ああ、トーマのくせに動きが俊敏なのが気に食わない。
そういえば伊南さんに連絡をしていなかったことに気付く。急いでポケットの中から携帯を取り出し、メールを打つ。
こんばんわ。
突然のことですが、友人の家に泊まることになりました。
夕飯の当番だったのに、本当にすみません。月曜日まで泊まるつもりです。それでは。
もちろん、件名は無題。そうして送信ボタンを押す。
その様子を覗き込んでいたトーマが「色気のないメールだこと」と鼻を鳴らしたのでまた蹴っておいた。デジャヴュって素晴らしい。
携帯を畳に置いて、チューハイをもう一口。
隣でトーマが唸っているが、僕には関係の無いことなので軽く無視をする。そして本題に戻る。
「美術部の活動に出ればいいのかな」
「おうおう、頑張れ」
「もちろんトーマも、一緒に朝練出てくれるんだろ?」
「拒否権はなさそうだな」
水野さんに告白されて、僕の心の中に張り巡らされていた蜘蛛の糸が吹き飛んだ。なぜに吹き飛んだのかは分からない。しかしこれは僕の成長と同じ。好きな人に自分の思いを伝える。結果がどうであれ、自分はきっと悔やまないだろうと予想できる。しかし予想をしたところでどうだろうか、フラれてもOKをもらっても、どちらにせよまず泣くんだと思う。成長できたことが嬉しくて泣くんだ。フラれるかそうでないかは、それを慰めてくれる人が違うってだけ。彼女ができたところで、僕の日常には何の変化もおきない。大切な人が増えただけ。
水野さんにはお礼を言わなくてはいけない。
泣きながらではあるが僕に告白をしてくれたことで、僕にもももちゃんに告白する勇気が芽生えた。
好きな人に好きと伝える為の決心がついた。
実行に移すのはいつがいいだろうか。明日は土曜日だから、美術部の部活は午後からだと思うけれど。ちなみに日曜日には活動をしていない。平日は他の部活同じく、朝早くから活動を行っている。桐浜中学校の生徒はその朝の活動の時間を、朝練と称す。今には関係の無い話だったか。
きっとももちゃんは、久しぶりに部活に参加する僕を軽く叱って、デッサンの要求でもするのだろう。感激して泣いてくれたら、僕は後先を考えず彼女の唇を奪ってしまうかもしれない。
僕の性癖は、泣いている女の人。
変態としか思えない。変態はトーマだけで十分だと言うのに。
さて。生徒会長の鬼頭くんや——えっと、とうぼう、くんには悪いが、僕は明日、ももちゃんに告白をする。
告白の内容を考えておかなければならない。トーマにそれを聞くのはなんだかとても癪に障る気がしてくるので、心の中で考えよう。
…………あれ。
あ、どうしよ。
頭が急に、重くなってきたぞ。
一旦チューハイを畳に任せて、トーマを見る。
「なぁトーマ」
「なんだよ」
「お、お前、このチューハイに毒でも盛ったのか……?」
「できたらいいよな……あ、まさかと思うけどさ。体がだるくなっちゃってる?」
「おう」
「酒は飲んでも飲まれるなよって、忠告しておいたじゃねぇか」
「どういう意味だよ」
頭が重くなった。
というよりは、脳内の全ての血管が詰まってしまったような。そして額に地味な痛みを感じる。
先ほどまでチューハイを持っていた為に、ほどよく冷えている手を額に当てる。すると、少しだけ痛みが和らいだ気がしたが、状態は変わらないと思われる。意味の分からない頭痛にどう対処を施せばいいのか分からず、畳に寝転がる。
トーマは相変わらず薄く笑って、自分が手に持っているチューハイを僕に見せ付けた。
「つまり、伊南は酒に弱いってことだ。初心者があれだけのペースで酒を飲み続けていれば、こうなるのも仕方ない。ちなみにお前は、本当に酒に弱いみたいだから、明日は体がだるくて動きたくないかもしれないぞ」
「……あっそ」
じゃあ明日の告白は中止で、今日はもう寝ろっていうのかよ。
いや、言われずともいますぐ寝るつもりだけれど。
「待て寝るな。とりあえず夕飯作るから、それ食べてから寝ろ」
「だるいから、いらない」
「夕飯抜くと身長伸びねぇぞ」
「いただきます」
*