ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: それはきっと愛情じゃない。 ( No.29 )
- 日時: 2011/10/10 22:31
- 名前: 柚々 ◆jfGy6sj5PE (ID: SAsWfDzl)
- 参照: (^ω^)ついに熱が出たよ!!
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「おい、もたもたしてると朝練終わっちまうだろ」
「……あ、うん」
幼稚園からの腐れ縁、トーマこと藤間駿の声が僕をせかす。
カッターシャツのボタンの一番下を留め終えたところで曖昧な返事を返した。
制服を着る時間が自然と遅くなっていることに気付いた。もしかしたら今日の一秒は三秒に匹敵するのかもしれないと考えたけれど、それは結局ただの願望でしかなくて、一秒は一秒でしかなかった。
今日は月曜日。
運命の日。
今日のお勤めを頑張れば、明日に何か変化が訪れるはずだ。僕のその一歩が世界を動かすかもしれないが、まぁ、それはないか。
一年生の後期に買い換えた眩しいくらいの白色をしたスニーカーをはき、玄関で僕を待っていたトーマのうしろに並ぶ。早く行けと言わんばかりにトーマのボストンバッグをはたくと、意味が伝わったのか、「はいはい」と呟きながら扉を開けるトーマ。
京都健在の二条城のうぐいす張りよろしく軋むその古びた扉。
いや、別にうぐいすが鳴いているようには聞こえないのだけれどね。
「今日はちょっと涼しいな」
「バカ。お前の家ん中が蒸し暑いだけだ。登校する前から汗をかくなんて、初めてだっつーの」
「初めてを取っちゃってスミマセンネ」
罵倒の言葉でさえも、すんなりと受け流すトーマ。
しかし彼の頬にも汗が流れた後が残っている。
けれど特に気にとめてはいないようで、当たり前だ、と言う面影もなく、手馴れた手つきで扉に鍵をかけた。
トーマの住むおんぼろアパートは二階建てで、僕たちが出てきたのも二階の一番隅の部屋である。トーマのうしろに並びながら、今にも崩れそうな錆びつく階段を降りて、地面に足をつける。
すると急に心拍数が上がった——
——気がした。
胸に手を当てると、鼓動が速くなっていた——ああ、もしかしたら僕は緊張しているのかもしれない。
自分は今から好きな人に告白をしに行くからだ。ずっとずっと好きだったけれど、今の今までその気持ちに気付くことができなかった。けれどとあるキッカケで心の豆電球に光が灯り、やっと気付くことが出来たのだ。スペシャルサンクス僕の友達。しかしあの出来事がキッカケにしかならないと僕が語ったことを『彼女』が知れば、何て言うのだろうか。もしかして、また泣いてしまうのかもしれない。
別にいいのだ。
女子は泣いている方が可愛いから。
「どーした、今さら胸焼けでもしてきてのか?」
そう言われて前方を見ると、トーマはそこにおらず、既に歩き出していたようで、すぐそこの曲がり角を今まさに折れようとしている状態だった。
「ちげーよ」
適当に返したが、言い終えた瞬間にはもうトーマは角を曲がりきってしまっていた。
僕はトーマ宅から登校したことはあまりないので、道をよく覚えていない。だから置いていかれるのは困る。
それくらい、意味のない口実を取ってつけて、トーマに地図でも書いてもらえばいいのだけれど。
そうだ、今日の帰りもトーマの家によって、地図を書いてもらうことにしよう。
そんなことを心に決めて、小走りでトーマの背中を目指す。
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