ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: それはきっと愛情じゃない。 ( No.33 )
- 日時: 2011/10/22 22:36
- 名前: 柚々 ◆jfGy6sj5PE (ID: SAsWfDzl)
*
別にトーマを攻める気はない。別に彼は口を滑らせた訳ではない、むしろ彼は真実を言ったのだから、その時点で彼にかけられるのは罪ではない。しかし当の本人は自分の発言がいけなかったのだと思い込み、気分を落としているようだった。滅多に目撃することのないトーマの落ち込んだ表情は、僕に罪悪感を抱かせている。
全てが空回りしてしまった。
トーマとは距離を作ってしまうし、水野さんには僕の存在を拒否されてしまったし。誰かに告白をするというのは、同時に何かを失わなければならないものなのだろうか。考えても答えはどうせ見つからないのだろうが、思えば、答えというものはいつでもそう簡単に姿を見せてくれないものだ。つまりは自分で考えろと言うことなのだろうか。しかし——理解しかねる。答えがないだけにね。
「そんな落ち込むなよ、トーマ。隣にいて面倒くさい」
うつむき加減で廊下を歩くトーマに励ましの声をかけてやる。
「落ち込んでいる人に対してその毒舌はないだろ……」
「いいから元気出せっつってんだよ」
「お前の励まし方は完全に間違ってる」
水野さんとは教室で別れ、僕はトーマと美術室へ向かっている最中だ。
朝部活が始まってから十分が経過しているところだが、優しい優しい桃瀬先生ならば許してくれることだろう——というのはただの推測だが、毎回朝部活をサボり続けている僕とトーマが美術室に顔を出せば、まずは喜んでくれるに違いない。
階段を降りるともうそこは校舎の一階で、そこからすぐに左を向くと美術室は姿を現す。美術室の扉は閉まってはいるが、多くの人気が感じられた。筆を洗っているであろう水の音がわずかながら聞こえるからだ。
そして美術室の扉の前で立ち止まる。気分の入れ替えとして、小さく深呼吸をしようとしたが、
「わっ……」
扉が急に開いた。
それによって、美術室から出ようとしていた人と目があった。
「あ……」
目の前に佇んでいるのは世にも美しい女性。
白い肌に赤い唇。
大きな瞳に長いまつげ。
ふんわりとした膝までの黒いスカートに、淡いピンク色のカッターシャツ。
左の耳の下で纏め上げている長い艶やかな黒髪が微かに揺れ、それによって甘い香りが鼻をくすぐった。
彼女の顔と僕の顔にある距離は、せいぜい三センチくらいだろう。
「あれ、誠くんだ」
「そ、そうです。伊南です」
「やっと部活に参加してくれる気になったのかな? 良かった、卒業するまでずっと来ないのかと思ってたから」
「それはないですよ。今日からまたお願いします」
「もちろんっ。さて、好きな席に着いてて。すぐにデッサンの準備を持ってくるから」
「はい、分かりました」
「今日の誠くんは聞き分けがいいなぁ。どうしたの?」
彼女は微笑む。すると瞬間的に、僕の鼓動は加速を始めた。
彼女の名前は桃瀬璃央。
僕の好きな人。
僕は今日、彼女に自分の熱い思いを伝える。
*