ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: crazy diary ( No.13 )
日時: 2011/09/23 18:35
名前: hei (ID: Fa1GbuJU)

俺が殺人犯を殺してから十日後。
俺は小さな公園のベンチに座って、遊んでいる子供を眺めていた。

街はまた落ち着きを取り戻していた。
連続殺人は止み、犯人が誰なのかは次第に人々の関心事では無くなっていくだろう。
人ではなく時が事件を風化させ、真実を闇に葬るのだ。
俺はそれをただ待っているだけ。それだけでいい。

「坊主、無関係な人間は忘れちまうだろうがな、あの女はそう簡単には忘れねえぞ。放っといていいのか?」

全く、どうして和昭のおっちゃんはこうも鋭いのだろう。
改めてこの人には敵わない事を痛感して苦笑する。

「大丈夫だよおっちゃん。あの女は誰にも喋らない。俺みたいな仕事の奴の境遇はあの女も十分知ってるからな。」
「何でそんなことが言えるんだ坊主。約束させた訳でもないんだろ?」

その言葉に俺は「大丈夫だ」、とだけ言っておいた。

(新田桜も俺と同じ、派閥の汚れ仕事をやる係だろうからな。)

倉庫で事の顛末を聞いた時から確信はしていた事だ。
ただの高校生が「派閥」から離反した、危険分子の予備軍のような女と
交渉できるとは思えない。
だとすれば、彼女は恐らく「ただの高校生」では無いのだろう。
最も、彼女は殺人や破壊工作などの仕事はしていないはずだ。
今回のような水面下での交渉や偵察が主な任務の、俺よりもマイルドな
裏仕事なのだろう。もしかしたら彼女自身も、自分のしている事の自覚が無いのかもしれない。

(果たしてそれが幸せなのか・・・。まあ、俺にはどうでもいいがな・・・。)

日野好子の死体はおっちゃんがどこかへ持っていった。
絶対に見つからない所へ。家も所持品も「派閥」の力で全て処分される。
一ヶ月もすれば「日野好子」の痕跡はこの世からほぼ消滅する。

(それも俺にはどうでもいい・・・。)

明日も明後日も俺は生きていく。そんな瑣末な事に思考は割いていられない。頭の中は明日の弁当の献立の事で一杯だった。

(何作ろうかな・・・?)

「まあ、仕事は終わったんだ坊主。普通に生活して普通に笑っとけ。
・・・いつかそれができない日が来るかも知れん。
そん時になって後悔しないようにな・・・。」

そう言うとおっちゃんは去ってしまった。
独りになった俺は梅雨前の貴重な陽気を感じながらぼんやりと考える。

(いつまで続けるのかな、この仕事)

この仕事は終わりの時まで続くのか、終わりとはいつなのか。
今はまだ分からないが、別に悩みはしない。
仕事が来ればそれを終わらせ、日常を貪り、次の仕事を待つ。
それの繰り返し。

(もしかしたら、それが俺の日常になってんのかも知れないな)

結論か分からない答えを出し、俺も立ち上がる。
うちの姉は無駄に舌が肥えているからまずい弁当は作れない。

「材料買ってこないと・・・」

そして俺は、また再開した短い日常を貪り始めるのだった。

 —第一話 完—