ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: crazy diary ( No.38 )
日時: 2011/11/05 19:59
名前: hei (ID: Fa1GbuJU)

土曜日の昼下がり、俺は公園のベンチに座っていた。
あの殺戮パーティーから、数日が経っていた。

「話は聞いたぜ・・・。今回は大変だったなあ。」

声のした方を向くと、和昭のおっちゃんが立っていた。
微笑しながら、無言で缶コーヒーを俺に差し出してくる。

「・・・別に。いつもの仕事だ。」

受け取った缶コーヒーを開け、ちびちびと飲み始める。
苦かった。ブラックでは無いのに。

「無理すんなよ、坊主。明らかに落ち込んでんじゃねえか、ん?」
「・・・・・・やっぱりそう見えるか?」

おっちゃんは答える代わりに自分の缶コーヒーを飲む。
無言の肯定と言う事だろうか。

「・・・解らないんだよ」
「何がだ?坊主」

言うべきかどうか俺は一瞬迷った。自分の中でもどう表現すればいいのか解らない疑問を、おっちゃんに言った所でどうにかなるのだろうか。
それでも俺は口に出した。
黙ってしまい込むのは、今の俺には無理だったのかもしれない。

「自分と他人の価値観なんてまるで違う。そんな事は解ってるんだ。
でもその事を口に出す人間は殆どいないんだよ。
重要なはずなのに・・・。何で言わないんだろう?
それが解らなきゃ、人間は他人の為に行動する事なんて出来なくなるのに・・・。」

自分の思う「善意」は、他人の価値観からすれば「悪意」かもしれない。
その違いを理解しなかったから、風花ちゃんは死ななければいけなかったのだ。
あの聡明な風花ちゃんですら気付けなかった事に、俺が気付く事が出来るのだろうか。
気付かないまま時が過ぎれば、一体どうなってしまうのか。
この数日、その事ばかりを考え続けてきた。

(俺も・・・殺されるのか・・・?)

俺のその深刻な問いにおっちゃんが返した答えは、至極簡単なものだった。

「そんなの決まってるだろ。言う必要なんてねえんだ、だから言葉に出しゃしねえ。皆理解してんだよ。他人の価値観が自分と違うなんて事は、無意識の内にな。その上で他人の為に動く、それだけだろ。」
「・・・それが解らない俺は、おかしいのかな・・・?」

沈みきった俺の声を聞いたおっちゃんは、いきなり笑い出した。

「・・・何笑ってんだおっちゃん。そんなに可笑しいかよ。こっちは真剣だってのに・・・。」
「それが悪いんだ。」
「は?」

俺が訊き返すと、おっちゃんはまだ半笑いで続けた。

「ワハハハハ・・・。お前のそんな顔見てたら笑えてきちまった、ククククク・・・。いいか、お前はそこが悪い。真剣に考えすぎだ。
そんなに根詰めて考えてたらすぐに鬱病にでもなっちまうぜ。
お前は要するに自分の『小さな親切』が『大きなお世話』になっちまうのが怖いだけの臆病者だ。
『大きなお世話』にならないようにする解決策なんて簡単なのに、考え過ぎるからそこに辿りつかねえだけだ。」
「解決策って何だよ・・・。」

本気でその「解決策」が知りたい俺に、おっちゃんはどや顔で言い放った。

「相手に聞きゃあ良いだろ?何かしてやる前に。『今からこんな事をするけど、別に迷惑じゃねえな?』って聞いて、それから行動すれば良い。簡単だろ?」
「・・・何だそれ」

俺は拍子抜けしてしまった。下らなすぎる。
だが、単純ゆえに明快な答えだった。
それと同時に、俺は気分が明るくなっている事に気付いた。
俺の悩みは、こんな下らない答えで解決してしまった。

(・・・悩み自体が下らなかったって事か。・・・何だそれ。)




おっちゃんと別れて公園を出て歩いていると、駅前でビラを手渡された。
駅前に新しいケーキ屋が出来たらしい。

(甘いもんが食いたいって、朝言ってたな、姉貴・・・)

ケーキ屋はここからそう遠くないようだ。買ってやっても良いと思った俺は、携帯電話を取り出し、家に電話を掛けた。

「あ、姉貴。姉貴にケーキ買ってやろうって思ってんだけどさ。
・・・迷惑じゃねえよな?」

—第二話 完—