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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: crazy diary ( No.65 )
- 日時: 2012/03/15 18:36
- 名前: hei (ID: Fa1GbuJU)
第四話
七月三十日。
空気はただひたすらに蒸し暑く、それを吸う者を息苦しくさせていた。
ここは街の南側、駅の正反対の方角だ。
そのせいだろうか。
駅周辺の整備され、高層ビルが立ち並ぶ小奇麗な景観とは似ても似つかない、古ぼけた二階建てのアパートや、雑草が生い茂り、手入れのされていない生垣に囲まれた文化住宅ばかりが延々と続いていた。
「雑然」という言葉がとてもしっくり来る。
「確かに…。ここなら潜伏にはうってつけですね。」
「……そこだ。コーポ小手島、そこの207号室だ。…気を付けろよ」
「はい」
そう小声で話す二人は背広を着て、外見はただの会社員だ。
しかし、小豆色の「コーポ小手島」の敷地内に入ると、二人は背広から
会社員が持っている筈の無い物を取り出した。
掌よりも少し大きめの、艶消しの黒で塗られた鉄の塊。
それは拳銃だった。
二人の男は、馴れた手つきで銃口に黒い筒——サプレッサーを取り付ける。
「お前は裏に回って、窓からの逃走をしないか見張ってろ。出てきたら、迷わず撃つんだぞ。」
「…はい。じゃあ、裏に行ってます」
そう会話を交わし、二人は分かれた。一人は赤錆びた階段をゆっくり上がり、もう一人は指示通り建物の裏側に足を進める。
「…逃げるか。こいつらを殺して。」
件の207号室、窓からの光しか差し込まない室内で、私はそう呟いた。
胸中はざわついていた。不安、恐怖、興奮。
いろいろな感情が無意識に、少しずつせり上がってくる。
その乱れた思いのまま、私は傍らで熟睡中の同居人を見た。
(……)
その穏やかな寝顔を見ていると、段々と私の心も落ち着いてくる。
私は、この「平穏」を維持し続けたい。
雑念は消えていた。丁度、ドアの前に人の気配もする。
(…始めよう)
音を立てず、だが素早く、私は立ち上がった。
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