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Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.2 )
日時: 2011/09/22 00:57
名前: 海底2m (ID: NMs2Ng.a)

第一章 第一話  「変わり果てた世界に生きること」

Page.1 「運命」




「あ゛—————っ、暑い」
煌々と照る日差しの中で、少年、黒部唯月は熱を存分に吸収しているアスファルトの上に倒れた。
しかし、その熱がもう温度計で測れるものではなくなっていることに一瞬で気づき、慌てて体を持ち上げる。
道路からは湯気が出ているようだった。
唯月は背負っているリュックからスポーツドリンクを一本取りだした。
全世界に広がっている謎の熱中症に、スポーツドリンクが予防に繋がるという研究結果がいつだったか出た。
「それにしても…」
唯月は辺りを見回した。結構大きな道なのにもかかわらず車と言う車は全くない。
少しは楽になると期待して上京したら、このありさまだ。
「全く、こんな太陽一個がそんなに怖いのか?」
家を出てから三日目。
もう既に体力は底を尽きかけているが、まだ宿すらも見つけていない。
あー、俺はここで飢え死にか。
などと思いを馳せていると、数百メートル先にアパートらしき建物が見えた。
その時である、何か運命を感じたのは。
根拠はない。今までだって人が住んでそうな建物は見かけてきた。
しかし何か出会いがあるような気がして
「っこいしょっと・・・」
と、唯月は気合いで立ちあがると、そこを目指して歩みを進めた。

近くに来てみると凄いことが分かった。
——玄関にあるポストに苗字が書いてあるのはたった一つだけ。
『石崎』と手描きの、しかも消えかけそうな殴り書きで、そう書いてあった。
隣の壁に目を移すと、ボタンがずらりと並んでいた。
おそらくピーンポーンとでも鳴るのだろう。しかし、これにも『石崎』以外の名は記されていなかった。
恐る恐るその名前に指を当て、キュキ、という音とともに名前を押す。
脇にはカメラらしきレンズと、スピーカーがついているようだったが、それから声がすることはなく、
『ガチャ』とドアが勝手に開いた。と言っても数センチほどだけ。
再び閉まりそうになるのを慌てて抑えつけながら、唯月は恐る恐る中に入った。

ボタンの配列からして『石崎』という名の持ち主は二階に住んでいるように思われた。
暗い中、コンクリート製の階段をぺたぺたと登って行くと、ギーッという音とともに木製のドアが少しだけ開いた。
ギクリと肩を強張らせると、中からヒョイと二十代の男性が顔だけ覗かせた。
……はっきり言ってお化け屋敷のようだ。
足を竦めて動かない唯月を見て、男性は一言だけ、こうつぶやいた。
「お前さん、よく生きてたな」