ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: クロア・D ( No.5 )
日時: 2011/09/25 13:32
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: cX1qhkgn)

 やる気が起きない。 ついでに、生きていく気力も無い。
 施設脱走したのはいいけれど、これからどうすっかな?

 「今日も野宿かね……」

 暗い夜道……と、形容できれば楽であろう。 目のちかちかするようなネオン街に、彼は居た。
 政府実験体ナンバー1324、検体名『魔王・ディアボロス』と呼ばれた能力者。 そして、レベルⅠの最下位能力者であり、レベルを有する能力者の中では最弱である。
 そんな彼が、何故魔王と呼ばれたのか。 それは、追って説明するとしよう。

 「んあー……宿取っとくか」

 困っているように見える彼。 彼は実際、全く困ってなど居なかった。 
 金はある。 通りすがりに裏路地に連れ込まれ、金を巻き上げようとした奴らから引き剥がした。
 結構な金額で、その額400ドル。 酒を頼むくらいの余裕はある。
 彼の足は、眼前の酒場へと向かった。

 「一番安いテキーラ。 あ、塩もライムもいらない。 直のみするから」

 紙幣を彼はカウンターに押し付けると、ビンを一本手に取るとコルクをつまみ、引き抜いた。
 ビン奥から漏れ出るアルコールの匂い。 流石、度の高い酒だけに匂いだけで酔ったような気分になる。 だが、そんな事彼には関係なく、彼はそれに口をつけると水でも飲むかのような勢いでそれを飲み干した。
 気分が良い。 ただ、この町ではそれは長続きしない。

 「テメエ、俺ァ誰だと思ってやがんだ? おお?」

 ……始まった。 しかも、あろうことか真後ろで。
 脱走してからと言うものこの数日間。 ここ、政府の監視の行き届いていない暗黒街を中心に行動をしているわけだが。 ここの地域は、政府の監視外とだけあってとにかく秩序のちの字も無く、荒くれ者が酒場で毎日のように喧嘩を繰り返す日々。
 表を一人で歩こうものなら、先に述べたとおり。 即、集団の餌食である。

 「五月蝿いな、君が誰だろうがどうでも良い」

 売られていない喧嘩に、彼が口を出す。 取り敢えず、酒の勢いであり、酒を飲んだ直後はとても短気だと言うのは自分でも分かっている。
 しかし、直す気はさらさら無いわけで。

 「んだ? テメーじゃねえよ、雑魚は引っ込んで——……!?」 

 一瞬だった。 声の主に一瞥もくれてやる事なく、赤毛の彼はその左腕一本でその声の主を締め上げた。 左腕で、男の喉本を握り締める。
 能力でもない、ただの腕力で。 そこからようやく、酒瓶をカウンターに置くと彼は男に笑顔を向けた。 彼の放つその視線には、一切の殺意の欠片すらない。 ただ、その笑顔が異様に禍々しいのだ。

 「誰だって? そうだな、クロア・ディナイアル。 で、いいかい? ボク自身、名前を明かしたくはないし。 何より……ボクは政府のお尋ね者だからね。 ここで名を明かせば、面倒なんだよ。 分かったかい? 命知らず」

 その言葉の直後、クロアの左腕により一層力が掛けられる。 その力は瞬く間に強くなっていき、終いには男の首にその指を深々と突き刺した。
 それも、笑顔のまま。
 それに対し、男も己を掴む腕に対し、刃を振るう!
 が、それはまるで霧を掻くようにしてクロアの腕を通り抜けた。

 「貴……様……! 殺して……や……」

 「無駄な努力ご苦労さま。 もういいだろう? 十分、自由を楽しんだはずだ」

 クロア・ディナイアルは笑顔のまま、その男の首をへし折った。

Re: クロア・D ( No.6 )
日時: 2011/09/25 13:34
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: cX1qhkgn)

 「そこの人! おーい!」

 酒場を出て3分ほど。 ずっとこの声が、クロアの後を追い回していた。
 女の声。 それも、彼の耳が正しく機能しているのであれば若いと言うところまで把握できている。 体系は、痩せ型。
 太った人間の声ではない。
 そして、呼び止められようとも、止まるつもりは一切無い。 何せ、人殺しを呼び止める奴などまともな奴ではないだろう。

 「あー……見えなくなっちゃう。 面倒くさいけど仕方ないか」

 確かに、そんな声が聞こえた。 その数秒後、彼の目の前に茶髪の女が空から落ちてくる!
 痩せ型の、若い女。 どうやら彼の聴覚は正常に機能しているらしい。
 それを避けると、クロアは臨戦態勢へと移行した。 ただ、能力は一切使うつもりが無い。
 以下に政府の監視外であるこの町でも、ディアボロスを発動させれば人目につくうえに、政府に情報が直ぐに飛んでいくだろう。
 それほどまでに、目立つ力なのだ。 今ここで使うべき力ではない。

 「やっほ。 イケズな男ね、話くらい聞いてくれたっていいんじゃないかしら?」

 「ヤダ、絶対。 ボクは誰ともかかわるつもりは無いんだ、悪いね」

 彼女の言葉に、クロアは言葉を返す。
 他人とかかわるのは好きじゃない。 そもそも、信用できる人間が今まで居なかった。 どうせこいつも、信用できそうに無い。

 「……能力者だけの世界を、創らない? 私と、他にもメンバーは居る。 施設から逃げ出した子供達や、披検体。 今必要なのは、圧倒的な力でそれを纏められるリーダー。 君がぴったりだと思うんだけど、やってくれないかな?」