ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人生ゲームはデスゲーム ( No.1 )
日時: 2011/09/22 23:18
名前: No315 (ID: vBUPhhME)

 第一章「始まりの日 Geme Start」


「……なんだこれ?」

それが、俺がここに来てから発した第一声である。
俺がいる場所はなんの装飾もせず、ただ鋼色の壁と床、天井だけがみえる密室。
なぜ俺がこんな何も無い部屋でそんな第一声を発したかというと、俺の目の前に、ピエロのような格好をしたいかにも怪しい奴が、床に『生えていた』からだ。

(どうしてピエロが生えてるんだろ……)

俺のそんな疑問を知ってか知らずか、ピエロは薄く笑いながら、上機嫌な声で言った。

「ようこそ。我々の『人生ゲーム』へ」

なぜこんなことになっているかというと、それは、過去にさかのぼる。



二〇三四年  六月七日
  奏神高校 第二教棟三階 2—E教室内

今日も眠くなるくらいの暖かい日差しに気づき俺はふと、外を見る。
窓ガラス越しに見えるのはまったく人のいない寂しい校舎。
ついでに窓を見ると映るのは髪を校則通り短めに整え、制服を着ている自分の姿。
俺の名前は篠崎紅架(しのざきこうか)。ごく普通の高校生。
特徴、特に無し。
好きな食べ物、中華牛丼焼肉風。
嫌いな食べ物、しいたけ、冷たい空気。
得意技、立ったまま寝る。
はい自己紹介終了。
ただいま今日の退屈な高校授業の終わりを告げる担任の話の真っ最中である。
普通に先生は連絡事項を話しているだけなのだが、一時間一時間を退屈としか思っていない生徒達にとっては、退屈な時間を終わらせる魔法の言葉にしか聞こえない。
俺もそう聞こえてる中の一人で、六時間という苦しみから解放されるという錯覚を感じていた。


時は流れて五分後。
担任の話が終わり、皆それぞれ部活動に向かうなり、そのまま帰るなり、友達と話して教室に滞在するなりで思い思いの行動をしている。
俺は部活には入っていないから、鞄を適当に整理して帰ろうとする。
と、教室から出ようとしたところで後ろから誰かに声をかけられた。
「おーい、紅架—。一緒にかえろーぜー」
「……お前は小学生か」
その声に応答しながら俺は声のした方に振り向く。
そこにいたのは、やっぱり校則通り髪を短めに整え、俺達の高校の制服を着た、俺のクラスメイト、雨原翔(あめはらしょう)。
翔とは1年からの付き合いで、俺が高校に来てから初めて作れた親友である。
翔は何事にも素直な性格で、よく思ったことを口にするのがはたして長所か短所か。
そんな性格は中学からあったそうで、女子には大人気。
中には、受験間際に翔の行く高校を調べ上げ、受験する高校をそっちに変更して入学するという荒技までやってのけた女子もいる。
高校に入ってからもその人気は落ち着くことなく、いまでも翔に告白するやつが後を絶たないとか。
一方俺の方は翔とは大違いな気がする。
俺は中学の時は運動神経がなかなかありサッカー部に入っていた。
そのころの俺はボールを動かすのが得意でよく試合に出してもらったりもした。
しかし、俺はあまり人気者になるのが好きではなく、よく会話を避けるようにして、ただおとなしく普通の学生として生きていこうとしていた。
それでも、よくサッカーの成績や会話を避けるために使っている、なにもかも面倒くさそうに話す仕草などがクラスメイトにうけ、よく話しかけてくるやつが増えてきた。
それから俺は、自分から話かけることはないが、相談や雑談などはよく聞いて対応してきた。
そこで、同じサッカー部の不良学生に目を付けられた。
なんでも、いつも隅っこでおとなしくしてるくせにサッカーが自分よりうまく、他のやつからも人気であったり尊敬されたりするのが気に喰わないらしかった。
そいつは、練習で俺にボールを渡す時、いつも取るのが難しいパスばかりしてきた。
なんとも小さい嫌がらせだが、その程度のことでは器用と呼ばれ、ボールの扱いに長けている俺にとってはどうってことなく、難なくボールを受け取り、ボールをちゃんとパスしなかった奴だけがコーチに怒られてばかりだった。
業を煮やした奴は、俺が一人で下校しているのを狙い、仲間を二人呼んで三人掛かりで襲い掛かってきた。
普通はそんなことをすると、思いっきり訴えられ、生徒指導室で長い説教+将来の影響が出てくるのだが、どうしても我慢できなかったらしい。
俺は、最初はちゃんと和解を求めて話し合おうとしたが、向こうが構わず三、四発殴ってきた時点で俺の怒りは沸点に達して、そいつらを全員返り討ちにしてやった。
その翌日、俺は職員室に呼ばれた。
奴らが、下校中に襲われて大怪我をしたと教員に訴えたらしい。
俺は職員室に入り、もう待っていたらしいその三人を見、一気に呆れた。
俺が奴らを返り討ちにしたとはいえ、ただあざにならないように足払いでこかしたり、手首を捻り上げたりしかしていない。
なのに、その三人は大怪我をしたとか思えないように、包帯を全身にぐるぐる巻きにしていた。一方俺の方は殴られたのは最初の三、四発だけなのでほぼ無傷。たしかに俺が襲ったように見えるだろう。
俺はいちいち事実を一つ一つ追及していくのが面倒くさかったので、教師の制止と三人の抵抗を振り切って、包帯を全部外した。
そこで、こけたような擦り傷しかないことに教師が気づき、後はどちらにも怪我はなかったので、三人の俺に対する嫌がらせとして処理され、三人だけ生徒指導室に連れて行かれた。
これでなにもかも解決したと思っていたが、そうではなかった。
クラスの中で、俺と三人の喧嘩を見ていた奴がいたらしい。なんとか、三人が悪いということで処理されたが、俺の強さが噂になり、俺に話しかけてくる人が大幅に減った。
やがて、自分に接してくれる者はいなくなり、ただ、恐怖と蔑みの視線だけが俺に突き刺さっていた。
そんな、最悪の中学校生活を送り、あまり気の乗らない高校生活が始まった時、
雨原翔が俺に近づいて来た。
翔は俺の機嫌が悪いかどうかなんて一切関係なく俺に話しかけてきた。
俺はそんな翔の姿に少なからず憧れてしまい、よく翔と一緒にいることが多くなった。
そして、今の親友という関係に至る。
今思えば翔のおかげで俺は普通の高校生活に戻れたのかもしれない。

「なにしてんだ?紅架?」

「ん?……あぁ、なんでもねぇよ」

俺が心の中で翔に感謝しているのを気づかれないように、俺はさっさと鞄を持ち上げ、教室を出た。

「あ、おい!待てって!」

翔はいきなり走り出す俺に驚きながらも慌てて俺の後を追った。