ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【いまんとこ二章目だよー】 ( No.15 )
日時: 2011/10/01 12:42
名前: No315 (ID: vBUPhhME)


「まぁ入れ!綺麗ではないがな」

そう言いながらぼろ臭いアパートの一室へと誘うのは、涼しい顔をした正影。
中は、廊下は何かが入ったゴミ袋でいっぱいになっており、部屋を覗くと、タバコやビールの缶が部屋に散乱している。
綺麗ではないけど汚すぎだろ……
心の中で呟きながら、とりあえずそこらへんにあった座布団をひっぱり出し、適当な所に座る。
しばらくすると、正影が、同じく座布団を持って来て、そこらへんに座る。

「よっと、では本題といきますか。あんたはここがなんなのか分かるか?」

「……擬似世界だろ?」

俺がそう答えると正影はくっくっ、と笑ながら俺のことを見る。

「そこまでは知ってんだな、まぁここはお前の言うとおり、あいつらが作り出した擬似世界ってやつだ」

「あいつら?医者達のことか?」

俺が言うと正影は少々目を見開き、少し真剣な声でたずねる。

「できれば聞かせてほしいな。あんたがどうやってここに来たのか」

俺は別に話しても損はしないわけだし、とりあえずどうしてここに来ることになったのかは全て話した。あのカーレルのことは話さなかったが。
正影は俺の話を全て聞き終わると、何かを思い出すように上を見上げ、やがて、すぐ元にもどった。

「なるほど、医療の麻酔ね、俺もそんな感じでここに来たかな……」

正影は独り言のように呟くが、俺はそれに構っていられず、いいだした。

「そんなことはどうでもいいんだ、俺が一番今知りたいのはここはなんなのかってだけだ」

俺はとりあえず速く現状だけを理解してこの世界から出て行こうと思っていた。ここがどういうところなのかを理解できればなにか対策があるかもしれないと思ったからだ。
正影は俺の言葉に笑いながらここは、ねぇ、と呟いた。

「ここは、簡単なとこさ。そう、ここはただの『人生ゲーム』さ」

「人生ゲーム?」

俺はその言葉に眉を顰めた。その言葉には聞き覚えがあったからだ。

「そう、ここはね、ある人生ゲームの特殊なルールで出来上がってる、いわばゲームの中なのさ。ルールは簡単。一マス一マスに世界がランダムで選ばれる。その選ばれた世界、いわばステージのなかで、人生を歩んで行き、ある一定の条件を満たすと次のマスに進める。そしてゴールすれば現実に帰れる。そんな簡単なルールさ。それに余計なものも混じってるけどね」

「余計なもの?」

「あんたも見ただろ?あの化物。あれは怪といってね、俺達にしか見えず、俺達にしか危害を加えない、面倒な生き物でね。さらに、面倒なのが次のマスに進むための条件がその世界の怪のボスを倒すことだからな」

「そんなの、人生ゲームでもなんでもなく、ただのホラーじゃねぇか……」

俺は呆れたように呟く。正影にもそれはしっかり聞こえてたらしく、肩をすくめながらそうだな、と肯定する。

「それでも、人生ゲームなのがこの世界なんだよ、たとえ、化物が混じってようが、誰かと殺し合いしようが、これは人生ゲームなんだ。だいぶふざけてるがな」

「ふざけている?」

俺は正影の言葉に、ぴくりと反応する。ふざけているとはどういうことか。
正影は俺のその様子を見、立ち上がるとどこからかカッターを取り出した。
キリリ、という音と共に、刃が姿を現す。
そして、そのままこちらに近づいて来るので、俺は咄嗟に身構える。

「まぁ、落ち着け。ちょっと見せる物があるだけだ」

そう言いながら正影は俺の腕を掴み、カッターを少し押し当てる。
いとも簡単に俺の皮膚は切られ、腕から切り裂くような痛みを感じ、俺は顔を歪める。
いったいこんなことをしてなんのつもりなのか、俺はそのまま正影を睨みつけるが、正影はニヤニヤと笑いながら、腕の切り口を見せる。
俺はそれを見て、驚愕した。
俺の腕には一滴の血も存在していなかった。ただ、切り口が見えるだけで、そこにあるだろう赤い液体が見当たらない。

「血がでるという細かな処理が設定されていない……いや、設定する時間がなかった?」

俺が無意識に呟いた考察に、正影はさすが、と口笛を吹く。

「だけど、重要なのはそこじゃない。腕、痛いだろ?」

「あったりめーだバーロー」

俺は切り口をさすりながら、正影を睨みつける。

「皮膚を切る、ってのは凄く痛いんだぞ。確かに漫画やアニメの登場人物は何度剣で切られようが倒れないけど、すげぇ痛いぞ。いくらここがゲームの中だって言ったって、現実と同じくらいの……痛みに……かん……じる……」

俺はそこで、自分の言葉に違和感を覚えた。昔、物語を書いていた友人に相談され、俺が珍しく質問したことがあった。

『なぁ、思うんだけど、どうして漫画やアニメの奴らってあんなに斬られたり撃たれたりしてんのに、倒れないのかな』

俺のそんな質問に友人はこう答えた。

『それはね、戦闘漫画やアニメになると、自分が撃たれたり、斬られたりする時がよくあるじゃない。そこで主人公達が簡単に倒れちゃつまらないだろ。だから主人公達にとってはそんなに痛くないっていう設定にしているのだと思うよ』

そんなに痛くないという設定。確かにそれなら、相手がいくら化物だろうと、殴られたり蹴られたりして、一撃で死ぬことはまずない。
だが、俺は今なんと言った?化物達が徘徊するこの世界で今なんと言った?
現実と同じ痛み、つまりそれは、たった一撃で気絶するような、人間のか弱さを表している。

「もしそれで、自分が死にそうなぐらいの一撃を食らったら、そりゃ物凄い激痛のゲームオーバーでコンテニューだな、確かにふざけてる」

「まぁ頭の回転が速いな、理解が良くて話やすい。だが一つ違うな」

正影は、カッターの刃をしまい、そこらへんに放り投げながら、座布団に座り直す。

「違う?何がだ?」

俺は、眉を顰めながら正影に問い返す。
そして、正影の口から放たれたその言葉はだいぶ不可解なもので、どこか、残酷な現実を突きつけているようにも思えた。

「たしかにこの世界にはゲームオーバーはあるが……コンテニューなんてものはないぞ」

「……は?」