ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.19 )
- 日時: 2011/10/10 13:08
- 名前: No315 (ID: vBUPhhME)
篠崎紅架とは翔と同じ、奏神高校の同級生であり親友だ。紅架と知り合ったのは一年の時で、入学式が終わった後、翔が同じクラスの顔と名前を出来るだけ速めに覚えようと周囲を見渡していると、不意に隅っこの席でただ一人、誰とも関わらずに、何も見ずに座っている篠崎紅架が目に入った。そしてその顔を見たとき、思わず紅架の席まで移動し、声を掛けてしまったのだ。
その表情が中学の頃の誰かに似ていたから。
「よ、出席番号九番の篠崎紅架」
名前と出席番号は前の黒板に書かれていたのですぐ分かった。だか、掛けた言葉がまるで、中学からの知り合いが軽く話しかけるような第一発言だった。なんの計画性も無しに声を掛けた翔は内心で『しまったぁぁぁぁぁ!』と叫び散らしていた。翔の言葉に紅架はピクリと反応し、ゆっくりと翔の方を向く。その目はしっかりと翔を捉えているが、翔を全く見ていない。いや、見ようとしていない。
紅架は翔の顔を少し眺め、前の黒板を見る。おそらく翔が誰なのか知ろうとしているのだろう。だが、翔は席に座っていないので、席を基準として書かれた名前の欄を見ても、意味が無い。紅架もすぐそれに気づき、翔の方を再び見る。そして、
「誰?」
とだけ言う。喋る際に瞳が少し揺らいだのが気になったが、とりあえず翔は、無計画で突っ込んだ自分を恨みながらスマイル。
「俺は雨原翔。出席番号二番。お前と同じクラ……」
「あ、そう」
翔が言い終わる前に会話終了。紅架はもう翔の方を向いておらず、ただ最初と同じように、なにも見ずに、ただそこに『いるだけ』の状態になっている。
一方、会話を無理やり打ち切られた翔は、スマイル状態のまま口元を引きつらせ、硬直している。
どうやら、意外と手強いようだ……
翔は硬直したまま、次にどんな声を掛けるか脳をフル回転させて考える。紅架は翔がずっといるのは気づいているのだが、咎めることも、見ることもせず、座っている。翔はしばらく思考した挙句、友好関係を深める時は使えと言われた父親の言葉を使うことにした。
「あー、篠崎」
「何?」
紅架は無視をする気はないようで翔の言葉にきちんと反応し、もう一度翔を見る。相変わらずその目は捉えるだけで見てはいないのだが、次の翔の行動に少なからず紅架は絶句した。
翔はスッと息を吸うと、足の間隔を二十五cmに広げ、左手を腰に当て、右手を胸の中心から二十二cm離した状態で親指をグッと上げる。そして、お得意のスマイルと共に白い歯を煌めかせ、
「親友になろうぜ!」
……と言った。
翔が出した声は教室中に響き渡り、クラスメート全員が翔と紅架に注目する。紅架は完全に唖然としており、口をポカーンと開けたまま翔のことを『見ている』。
教室内に静寂が走る。その静寂が何秒か続くとついにその静寂は破られた。しかし破ったには翔でも紅架でもクラスメートでもなく、
「雨原君!」
とどこか緊張した声を上げながら、教室の入り口の前で立たずむ他クラスの女の子であった。
「はい?」
翔は呆けた声を出しながらその女の子を見る。
今自分のことを呼んだのだろうか? っいうかどこかで見かけたような……
その女の子は他クラスの教室内にズカズカと入り込み、翔の目の前まで歩く。顔が真っ赤になっている。入学早々熱でも出したのだろうか?
「あ、あの! お話があるので、放課後屋上に来てください!」
唐突に女の子が叫ぶようなボリュームで言い、そのまま顔を真っ赤にしながら教室から出ようとするが、その肩を誰かが掴んだ。振り向くと少し困惑したような表情の翔が女の子の肩を掴んでいた。女の子の方は自分を掴んでいるのが翔だと気づくと、ただでさえ真っ赤な顔がさらに赤くなり、何かを期待するように翔のことを見る。
「えっと、君」
翔は戸惑いながらもゆっくりと口を開ける。女の子は翔の次の言葉に期待をふくらませながら、翔の言葉を待つ。
「え〜、屋上は危険だから普通に閉鎖されているよ? だから待ち合わせるなら校門とかにしたほうがいいと思う。あと物凄い熱があるけど大丈夫? なんなら保健室に……ってあれ? どこ行くの!? おーい!」
翔の言葉が終わらない内に女の子は光る青春の涙を溢れさせながら教室をジェット機のような勢いで出て行く。グッバイ。我が恋よ。
翔は混乱しながらも慌てて走り去った女の子の後を追う。
ちなみに、先ほどの女の子が、翔の志望した高校を調べ上げ、受験間際にその高校に志望校を変え、そしてそのまま入学するという荒技をやってのけた片思いの生徒だということは知ることもない。
残った教室内の生徒達は、入学したてで告白しに来たあの女子とその告白に全く気づかなかった翔に呆れ半分、感激半分でため息を一斉に吐き出した。
その様子を紅架はずっと見ていた。
翌日。
結局、あの女の子が誰だったのか分からず、どこか釈然としない様子で登校した翔。教室に鞄を置き、また、クラスの顔を覚えようと周囲に意識を向けようとした時、不意に後ろから声が聞こえた。
「雨原……だっけ? まぁ、親友くらいならなってもいいぞ」
振り向くと紅架が翔のことを見ていた。その顔もどこか楽しそうで、昨日のような無感情さは見られない。なぜいきなりこんなに友好的な性格になったのかは謎だが、翔は特に気にすることはせず、
「あぁ、よろしく、篠崎!」
笑顔で紅架の元に歩み寄り、差し出されたその手を握るのであった。
そして二年になった頃、翔と紅架はまたもや同じクラスで、常に二人で行動し、周囲からも親友と認識されていた。そんな平穏な毎日が『あの光景』で一瞬にして壊された。