ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.22 )
日時: 2011/10/24 21:38
名前: No315 (ID: vBUPhhME)


「えと、篠崎紅架さんのご両親と担任の先生。そして、紅架さんのお友達ですね」

 翔たちが案内されたのはとある一室の手前であった。そこにおそらく院長らしき人物が待ち構えていて、軽く挨拶を行った。

「それで……紅架はどうなったのですか」

 稔が落ち着かない様子で早く紅架の状態を聞きたがっている。それは翔を除いて皆同じことだった。

「篠崎紅架さんは、頭をかなりの勢いで頭を強打して、その時点で脳が潰れて死んでもおかしくありませんでした。しかし、彼は驚異的な力強さでここまで生きてきました。手術前にも一度目を覚ますほどの生命力でした。そして、その紅架さんですが……」

 院長は心底申し訳なさそうに、ただ、現実を告げる。

「……その強さにも限界が来たようです。先程、息を引き取りました」

 紅架が死んだ。
 院長の言葉は的確にその現実を告げていた。それを聞いた稔と父親はその場で肩を寄せ合い、俯く。教師はその二人を見てどう言葉を掛けるかを迷っている。翔はだいたいの覚悟はして聞いたのだが、やはりなかなか耐える事のできない事だ。歯を食いしばり、そっと俯く。院長はその様子を見て、少し気まずそうに言う。

「……奥に紅架さんがいます。会いに行ってあげてください」

そして、翔達は部屋の中へと促される。

カーテンが閉められたほぼ白で統一された部屋。静寂が支配し、薬品の臭いが微かに感じられる部屋。部屋の隅に一つのベッドがあり、そこに静かに眠るように目を閉じる親友の姿がある。怪我の痕が少し痛々しく残るその顔は苦しそうとも幸せそうとも思わせない、ただ目を閉じてるだけのような表情。今にも目を開けそうな様子だが、そんなことはありえない。翔はそっと心でそう念じた。せめて、親友の前で情けない顔は見せたくない。

「紅架……」

 稔がそっと呟き、紅架の元に歩み寄る。紅架の顔を見つめ、何度も頬を撫でる。父親も紅架の元に歩み寄り、「紅架……紅架……」と繰り返し呟く。
 しばらく翔はその様子を見ていると誰かに肩を掴まれた。振り向くと担任が気まずそうな顔で翔を見ている。

「雨原君。君も悲しいだろうけど、今は家族だけにしてあげよう」

「……はい」

 翔は最後に稔と父親、そして紅架を少しだけ見つめ、部屋を出て行った。

気がつくと、翔は見知らぬ廊下を歩いていた。
 部屋から出たあと、担任と一言二言交わした後、ロビーに戻ろうと歩いていたら、少しボー、として、いつのまにか見当違いの廊下を歩いていた。初めて来る病院だから、基本的に右に部屋、左に部屋。のような光景だけが見えてる気がする。
 とりあえず、誰かに道を聞いてさっさと戻ろう、と人を探すことに目的を変える翔。しかし、あまり使われていない部屋ばっかりなのか、なかなか人が見当たらない。
 だんだん不安になってきた翔の耳に、ふと、人の話し声が聞こえた。翔はやっと人が見つかったと、声のした方に近づくが、

「それで、今日来た患者……篠崎君だったかな? 彼のデータはどうなってるんだい?」

 唐突に現れた篠崎という単語にピタッと足を止める。翔の目の前には応接室と書かれた部屋があり、どうやらここから声が聞こえるようだ。

「はい、手術前にちゃんと『デジタルクローン』をスキャンしました」

 どうやら、部下と上司の会話だろう。なにやらわけの分からない単語が出てきているが、それと紅架がどう関係しているのかがとても気になる。

「よし、それじゃあ後でソフトに送り込んどけ。あと……」



「篠崎紅架はちゃんと死んだか?」



「なっ!?」

 翔はその上司らしき男の言葉に驚愕する。病院の中で患者にちゃんと死んだか確認するなんて、あきらかにおかしい。翔は周りに人がいないのを確認し中の会話に集中する。

「はい、っていうかあれはもう治しようがありませんでしたよ。見ただけで物凄くひどかったし。目立つ怪我とかは治しましたが中はそのままほっておきました」

「よし、それでいい」

わけが分からない。なぜ、そんなことをしているのか、患者を治さずに見殺しにした?
翔は突然でてきた展開について行けずしばし混乱する。しかし、なぜか頭の隅ではこいつらが紅架に何かをしていると冷静に解釈していた。

「それにしても、よくこんなことしてばれませんね。もう何年も続けてるのでしょう?」

「ああ、俺達が狙ってるのは、死にそうな患者だからな、少ししか死亡率のない奴はとことん治してるし、時々本気で治す時もあるからな。ほら、手は尽くしたけど無理でした、的な?」

「なるほど、確かにそれなら疑われませんね」

 奥で二人の笑い声が聞こえる。翔はその声に嫌悪感を覚え、拳をきつく握り締めながらその部屋を後にした。



その後、翔は稔達と合流し、そのまま車に乗せてもらい、埼玉に戻った。
 車で走ってる道中、翔達は一言も喋らなかった。それぞれ紅架を失くした喪失感が残っているのだろう。翔もあの部屋の会話のことは一切喋らず、ただ静寂が車内を支配したまま、車を走らせた。