ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 人生ゲームはデスゲーム 【四章目開始っすな】 ( No.28 )
- 日時: 2011/11/20 14:56
- 名前: No315 (ID: vBUPhhME)
大商業区 中心街付近 裏道
「クソ! どこ行きやがった!」
NPCが存在しない空間の中で、三人の内の一人が銃を器用に手元で弄びながら苛ついたように言う。残りの、肩に長剣を担いだ男と、両手で二本のナイフを構えている男は、苛ついている男に気長に行こうぜ、と言いながら、周囲に気を配っている。
今、三人がいる道は大商業区の中心街と呼ばれる、一流の商人や区長などが住み着く街の裏道である。
ここの裏道はとても入り組んでいてよくNPCが迷い込んで来るエリアであり、隠れる場所も豊富で、さらに上手く道を使えば、民間区まで進むことができるらしい。
三人のターゲットであるとある少女は、三人の追撃を巧みに避けながらこの裏道に隠れこんだのだ。
三人も慌てて後を追ったが少女の姿はなく、この通りだいぶイラつきながら少女を探すことになった。
「あぁ、クソ面倒くせぇ。もういいだろ、あんな女狙わなくっても」
やがて、銃を持った男がとうとう愚痴をこぼし始めた。それにナイフ使いは苦笑いしながら長剣使いに視線を向け、長剣使いの男は、
「馬鹿言うな。あの女のサブ武器を見ただろ? あれがあればプレイヤーなんていつもよりもっと楽に殺せる。なんとしてでも手に入れるぞ」
と言いながら再び周囲に気を配る。長剣使いの言葉に銃使いは舌打ちしながら銃をクルクルと回す。どうやら相当暇で苛々しているようだ。
「なぁ、そんなに苛ついてんのならその銃でどっか撃てば? どうせ追撃している時から弾倉の交換してないだろ。ここで残弾全部使って弾倉交換しろ」
先程から銃使いが銃がクルクル回す様を暇潰しに見ていたナイフ使いが、いきなり銃使いに提案した。その提案に銃使いはおぉ、そっか、と言いながら銃口を空に向ける。
「どうせ俺達の隔離範囲から離れてたらあの女に銃声は聞こえないだろうしいいよな?」
そして長剣使いに同意を求め、長剣使いは仕方なさそうに構わん、と肩をすくめながら言う。その言葉に銃使いはよっしゃ! と嬉しそうに引き金を引き、銃の中に残っていた銃弾を一気に銃口から吐き出させる。
何発もの銃弾は狭い建物と建物の間を通り抜け時折、壁に穴を穿ちながら空へと向かう。
しばらく銃使いが銃弾を撃ちまくる光景が続いたのだが、
「———え? きゃあ!」
突然、どこからか少女の声が響き渡った。その声が聞こえたと同時に長剣使いとナイフ使いの二人はバッ! とそれぞれの武器を構える。銃使いの男は即座に銃撃を止め、素早く弾層を取替えて、他の二人と同じように声がした方向……上空へと目を向ける。
そこには少し特徴的な両剣を構えながら三人に落下してくる、ターゲットの少女がいた。
数分前 三人の通る裏道の建物の上
風がびゅうびゅう吹いているとある建物の屋上。そこで簡素なシャツの上に水色のワンピースを着、桜色の髪をした少女—桜木優は、片手に相棒の両剣を持ちながら、下で自分を探している三人を見下ろしていた。
一度三人を撒いてから再び見つかったあの後、優はこの裏道に逃げ込み、三人が見えなくなった所で両剣のスキルを使って建物と建物の間を跳躍して屋上まで逃げたのだ。
そして、そのまま屋上に隠れ、三人が消え去るのを待っている状態である。
別にこのまま三人の進行方向とは別の方向に逃げればいい話なのだが、ここから移動するとなると屋上から屋上へと飛び移らないといけないので、いちいちスキルを使わなければならない。スキルというものは使う度に疲労が重なってくるものであり、優はその中で強力なスキルを三回、それも全て長時間使っている。これ以上使うと他のプレイヤーに見つかった時にまともな抵抗ができなくなる。
他には優の後方にある屋上のドアを使って一階まで降りる手段があるのだが、降りればその分三人との遭遇率が高くなる。今はこのまま三人がいなくなるのを待つのが最善策だ。
三人に追われている途中に負った左肩の傷は、もう跡形もなく消え去っている。この世界の中では、このくらいの傷は五分もあればすぐ直るのだ。
優は、三人が一度立ち止まったのを確認し、そのまま床に座りながら息を整え、手にしている両剣を見る。
優の持つ両剣「水陣・斬姫」は、長めに作りだされた柄の両端に少し幅広くできた刃。柄の部分は青く着色され、刃にはそれぞれ何かの紋様が刻まれている。どこかの伝統芸能で二本の剣を振るい、舞を踊る姿から作られた設定らしくて、だいぶ軽めに作られている。
優がこの武器を手に入れたのは七ヶ月ほど前で、最初はあまり馴染まなかったのだが、何度もサブ武器として振るっている内に扱い方に慣れ、今ではほぼメイン武器と言える程毎回この武器を使っている。
それに、この両剣に付随しているスキルも中々のもので、今まででも危険な所でだいぶ助けになっている。
優はその大切な相棒の両剣の感触を今一度確かめ、三人に視線を移す。三人は少し話し合いをしていただけのようで、やがてまた歩きだした。優は、そのまま三人がいなくなるのを必死に願いながら三人の様子を見ていたのだが、
ギイィィィ……ィィ……ィ……
なにやら不気味な音が優の背後から流れ、優は瞬時に両剣を構え、振り返る。
「……誰」
優は、振り向いたと同時に低く呟く。音の正体は屋上の扉が内側から開けられた音らしく、今まで閉まっていた扉は勝手に不気味な音を立てて開いていた。
優は扉の先に視線を集中させるが、扉の先には誰もいない。不審に思いながらそのまま扉の先を見据えるが、何も見えず、やがて謎の現象で開いた扉は風の勢いに乗せられ、これまた不気味な音を立てて閉じていった。
パタンと閉じた扉をずっと見ていた優は、足音を殺しながら、右手に「水陣・斬姫」を構え、そっと扉へと近づく。扉は閉じたまま勝手に開くことはなく、ウンともスンとも言わない。
そして、優が扉の前まで接近し、その左手がドアノブに触れようとしたその時、
銃声。
優はバッと扉から瞬時に離れるが、銃声は扉の先からではない。
「下?」
先程まで三人を見張っていた方向から何発もの銃声が響いてくる。優は、一旦扉のことは後回しにして三人が見える、屋上の隅まで走る。
そして、優が見下ろすと、三人の男の一人が銃を何発も撃ちだしていた。何発もの弾丸は空気を切り裂きながら高速で移動し……優の足元に着弾してきた。
「———え? きゃあ!」
優は、急の出来事に驚き、そのまま足を滑らせて三人の下へと落下していく。
——気付かれた?
優は落下しながら、三人の様子を見、全員が自分に武器を向けているのを確認した後、優自身も「水陣・斬姫」を空中で構える。