ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【四章目開始っすな】 ( No.33 )
日時: 2011/12/21 11:46
名前: No315 (ID: D71pwe7j)

「ヒャッハー! 自分から出てきやがったぜ!」

 ナイフ使いの男は優の姿を確認するなり嬉しそうに声を上げ、いつでも攻撃できるように二本のナイフを構える。長剣使いの男も表情を引き締めながら武器を構え、銃使いの男に視線を向ける。銃使いの方は分かってるとでも言いたげな笑みを見せ、銃の照準を落下してくる優へと向ける。
 優は、少しでも落下の衝撃を抑えるために必死に両剣を壁に突き刺し、壁を浅く削りながら火花を散らして降りてくる。
 銃使いの男は、優が武器を使えないことを確認すると、照準を合わせたまま、引き金にゆっくりと力を込めていく。
 優は自分が撃たれると知ると、左手を柄の中心から少しずれた場所に掴ませ、少し強くその柄を捻る。
 すると両剣が、柄の中心からパックリと割れ、二本の剣と化す。その瞬間に銃使いの引き金は完全に引き絞られ、銃声を響かせながら銃弾を放つ。優は壁に突き刺していない方の剣を盾にし、即座に身を守る。剣の幅があったおかげでなんとか銃弾は剣の腹に当たった後、狙いを逸れて近くの壁に穴を穿つ。

「あの女! カスタマイズで分離できるようにしてやがる!」

 一発目の銃弾が弾かれた事を知るや、銃使いの男が叫ぶ。

「構うな! 降りて来る前に撃て!」

 その叫びに反応してすかさず長剣使いの男が叫び返す。銃使いの男は、長剣使いの言葉に頷いて、さらに優に向かって銃弾を放つが、
 ——『幻想舞踏』——
 スキルを発動した優は、壁を蹴り、数々の銃弾を避け、落下速度を上昇させる。
 優の持つ「水陣・斬姫」に付随しているスキルの一つ。『幻想舞踏』。
 一応、技スキルの一種なのだそうだが、「一定時間身体能力を上昇させ、相手を無数に切り刻む」という設定で作られたこのスキルは特にモーションなどが決められてなく、いくらでも応用が利くのだ。
 優は、このスキルを逃亡用や奇襲用などに使っているのだが、使う度にそこらのスキルより極度な疲労が蓄積されていくのが難点で、まずあまり使うことはない。
 今は状況が状況なので、もう四回も使っているが。
 落下地点に長剣使いの男がいたので、すかさず優は双剣化した「水陣・斬姫」二本を重ね、落下の勢いイッツ上乗せで長剣使いの男へと振り下ろす。長剣使いは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を元に戻し、長剣を両手で持って構える。
 ——『筋力増強』——
 長剣使いの男の長剣が尋常じゃない速さで振り上げられ、優の双剣と激突する。
 轟音とも言える凄まじい衝撃音。通常ならあまりの威力にそれぞれの武器が粉々になってもおかしくないのだが、優の両剣も長剣使いの長剣もレアな武器らしく、どちらの武器もヒビ一つない。
 しかし、プレイヤーまではそうも頑丈ではない。双剣と長剣の間に生じた巨大な衝撃が二つの武器を通して、それぞれのプレイヤーへと伝わる。長剣使いの方は自分の体の一部を強化するスキル「筋力増強」を使っていたおかげで顔をしかめる程度の痛みで済んだが、優の細い両腕には尋常じゃないほど張り裂けそうな痛みが容赦なく襲い掛かる。

「う……うぅ!」

 優はあまりの痛みに、武器を取り落としそうになるがなんとか堪え、着地すると同時に長剣使いと大きく距離を開ける。
 先程の痛みと溜まった疲労感で発動していた「幻想舞踏」が解除されてしまったが、今はそんな事に気を向けている暇はない。優は長剣使いと距離を開けながら双剣を組み合わせて両剣に戻し、そのまま後ろから不意打ちしようとしていたナイフ使いの男に振り向きざまになぎ払う形で両剣を振るう。

「うぉわ!?」

 ナイフ使いの男は、後ろから近づいた自分に、気付いていないと思っていたのだろう。迫り来る刃をどうにか避けたが、そのまま硬直してしまう。
 優はその隙を逃さず、ナイフ使いの男に足払いを掛け、ナイフを一本拝借する。

「野郎!」

 銃使いの男はナイフ使いが足払いを掛けられる所を見ると、次の弾倉を銃に叩き込み、銃口を優に向け、二発を優に向けて発射する。
——『幻想舞踏』——
 優は、本日五度目の「幻想舞踏」を発動し、両剣を扇風機(風量 強)くらいの速さで高速回転させる。放たれた弾丸は二発とも、高速回転する両剣の壁を越えられず、どこかに弾かれて消えていく。
 弾丸が弾かれたのを確認した優は、両剣の回転を止め、凄まじいスピードで銃使いの男へと迫る。

「あぁ! クソ!」

 銃使いの男は、急速に近づいてくる優に向かってイッツやけくそに何度も弾かれてきた銃弾を一発、優の左肩へと放つ。
 優は、特に避ける仕草は見せず、銃弾は優の左腕を掠めてどこかに消え去る。優は、少々顔をしかめながらそのまま銃使いとの距離を詰め、両剣を分離する。
 右手に持った剣の柄で、銃使いの鳩尾を強く打ち、左手の剣で手に持っていた銃をどこかに弾き飛ばす。そして即座に両剣に戻し、ナイフ使いから拝借したナイフを近くに来ていた長剣使いに投擲する。
 長剣使いの男は、反射的にナイフを払い落とし、即座に長剣を構えるが、優はそのまま三人を置いて、格段にアップしたスピードで逃げる。
 長剣使いは即座に後を追おうとしたが、倒れている二人を置いて行く訳には行かず、逃げ続ける優を姿が見えなくなるまで見ているしかなかった。

「いててて……クソ、やられた」

 銃使いの男が、鳩尾を押さえながら苛だしげに呟く。

「どうする? 逃げられちまったし、もう放っておくか?」

 ナイフ使いの男は、自分のナイフを回収しながら、長剣使いに言う。長剣使いの男は、しばらく何かを考える素振りを見せたが、やがて

「いや、追うぞ」

 と言いながら長剣を肩に担ぎ、優が消えていった方向へと歩き出す。

「考えれば相手は上級のスキルを何度も使っている。そろそろ疲労も完璧に溜まっているだろう。今が潰し時だ」

「しっかしさぁ、あの女が疲労しているかは分かんないぜ? さっきだって物凄い判断能力でここまでやったんだし」

 長剣使いの言葉に、追いかけてきた銃使いの男が反論する。しかし、それでも長剣使いは歩みを止めず、銃使いの方を見ぬまま答える。

「最後のお前の銃弾が避けきれていなかった。極度の疲労でそこまで頭が回らなかったんだろう。それに、俺に向かって投げてきたナイフ、まるで重さが無かった。これだけで疲れているのは簡単に分かる」

 そのまま三人は入り組んだ裏道を抜け、ターゲットを仕留めるべく大商業区の商売通りへと向かう。