ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人生ゲームはデスゲーム ( No.9 )
日時: 2011/09/25 22:39
名前: No315 (ID: vBUPhhME)

ピエロは俺のその言葉に少々目を見開く。そして、顔にいままでの余裕を持った笑みとは違う、薄い笑みを貼り付け、腕を伸ばしながらぷらーんぷらーんと左右に揺らす。
もうすぐでコイツの皮を剥がせそうだ。

「それはどういうことかな?俺は君を助けるためにわざわざこんな擬似世界を苦労して作って、ここに放り込んで、それでこれから共に行くことを薦めてあげてるのに、どうして俺のことを信じれないのかな?」

その声もいままでの陽気な声とは少し違う。口調は変わった様子はないが、あの時の医者のようにどこか寒気のする声に変わっている。

「確かに、ここまでされるとあんたは俺をわざわざ危険な所から救出して、さらに自分も一緒にその危険な場所に行こうとする、本気でお人よしなやつだな。まぁそこまでされるとほとんどの奴らは信じるだろうな」

「じゃあ、なんで?」

俺はそう聞いてきたピエロをキッと睨み付け、叫ぶ。

「お前は最初に言ったよな。『ようこそ。我々の人生ゲームへ』ってな!」

すると、ピエロの動きがピタッと止まった。
俺はそんなピエロの様子を無視し、言葉を続ける。

「そもそも助けに来たってのがおかしいんだ。即席で世界を作り、そしてそこに俺を放り込むほどの技術があるのなら、なんで俺を現実に返さない?その理由は二つ。元々そんな技術がないのと、現実に戻られるのが困るからだ!あんた言ったよな?俺がその世界に行く前にこの世界にひっぱり込んだって。なのに『ようこそ。我々の人生ゲームへ』か。そんな歓迎の言葉を口にするってことは、ここはもうお前の言う『危険な世界』なんじゃねぇのか!お前はなにかしらの理由で何も知らない俺を利用しようとしたんじゃねぇか!」

俺がそこまで言っても、ピエロは無言のまま時が止まったように俯き、動かない。
俺は少し間を取り、ピエロに向かって言う。

「問②だ、どうしてあの医者達はこんなことをしている。得点は十点」

それでも、ピエロは黙っている。
俺はちゃんと聞いてんのか、と気になり、何か声を掛けようとするが、

「……クフフ……」

不意に笑い声が聞こえた。
周りに人がいないことから、おそらく目の前のピエロが発している声だろう。

「クフ、クフフフ……クフフ……」

しばらく、その声が辺りに響き、俺は何か計り知れない奇妙な物を感じていた。

「お、おい」

俺はその気味の悪さに思わず声を掛けてしまう。
俺が声を掛けると同時に、ピエロ……否、カーレルはキッと顔を上げ、

「……アハハハハハハハ!ハハハハハハハハハハ!!アァハハハハハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

盛大に、そして狂ったように笑いだした。
俺はその声を聞いた時、本能的に『ヤバイ』と思った。
あの笑い声はたぶん、俺を騙すことができなかった悔しさの感情。
俺に簡単に推理された怒りの感情。
見事自分の事を見破ったという賞賛の感情。
そして、やっと『本当の自分』を出せた歓喜の感情。
それらの感情がすべて歪に混ざり合い、発声器官を通して吐き出される、混沌のような笑い声。
カーレルは自分の脳内に警報を流している俺に構わず、ただ笑って、
狂ったように笑って、
笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って笑って……
カーレルはもう文字通り俺の目の前まで来ていた。
俺が目を見開く間もなく、カーレルは俺の顔を手で覆い、そのまま床に叩き付けた。

「がっ!?」

なんとか背中から床に叩きつけられたので、頭の衝撃は半減されたが、それでも威力は結構なもので、一撃で意識を刈り取られそうになるが、カーレルの手が、俺の顔を力強く握り、気絶することを許さない。

「なかなかやりますねぇ。確かに会話の中にヒントをたくさん隠しておきましたが、それを全て当てるとは」

「ぐっ!……それは光栄だな……」

俺はなんとか意識を完全に脳と接続し、掠れた声を出しながら、右拳を握り、カーレルを殴ろうとするが、カーレルは顔を押さえていない片方の腕で、俺の拳が届く前に、俺の胸を強く押さえ付けた。

「うっ!」

肺が勢いよく圧迫され、肺の中にあった空気が全て吐き出される。そして、すぐ空気を体が求め、俺は激しく咳き込んだ。

「あまり動かないでください。あまり抵抗すると殺しちゃうかもしれませんから」

「ゲホゲホッ!……最初の一撃から……殺す気……満々だったじゃねぇか……」

「いいえ、別に殺す気はありませんよ」

カーレルはそう言うと、顔から手を離し、立ち上がる。
カーレルから開放され、俺も立ち上がろうとするが、もうそんな気力も根こそぎ奪われ、起き上がることすらできない。

「ただ、知恵はいくらあろうとも、力の無い者は決して調子に乗ってはいけない。今のはちょっとそれを教えておこうかと思っただけですよ。」

「俺を……これからどうする気だよ……」

俺がそう言うと、カーレルはクックッ、と笑いながら、俺のことを見下ろす。

「当然、あの世界に戻します。そこにいてもらわないと困るのでね」

そう言いながら、カーレルは指をパチンと鳴らす。すると、俺のいる床が開き、俺はどこかに落ちていく。

「待て!まだ聞いてないことが!」

俺の言葉もむなしく響き渡るだけで、急速な落下感は変わることはない。

『大丈夫ですよ、目覚めるときにはもうあの世界ですから』

急に頭の中でカーレルの声が響く。それと同時に、視界がだんだん真っ白になっていき、意識も薄くなる。

『そうそう、これから君が行く世界がどんな所か話してなかったね』

ただ、カーレルの声が響くがそれもだんだん薄くなっていく。

『まぁ、ただの人生ゲームさ、そうただの・・・』

カーレルの小さくなる声を聞きながら、




『それでは、ゲームスタート』


俺は気を失った。





一章終了。