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- Re: 皆で短編ホラー小説対決【暮来月 夜道sVSさゑs】 ( No.181 )
- 日時: 2011/11/26 19:40
- 名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
暇なので。もう投下。
一人の男が、深い森に迷い込んできた。
赤いダウンに黒いキャップ。一見目立つその格好。しかし、霧の立ち込める薄暗い森の中では、意味も成さない。
「霊が出る?自殺者がいる?ははは。そんな莫迦な」
木に滴る露よりもはるかに冷たい汗が、男の頬を糞虫が這うかのように気持ち悪く撫でた。
独り言をぶつぶつと呟けば、孤独は増していく。さながら、浮遊霊のごとく。
嗚、俺はこの森から抜け出せるのだろうか。
こーん。こーん。と、啄木鳥が木を削るような音がする。
こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。
男の頭に物珍しい音が、毒のようにまわり、耳を傷めるように音は続く。
こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。
一定のリズムを崩すことなく、礼儀正しくその音は響く。
男は、自然と、言葉を発するのを止めた。
こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。
いつまでも止まない音は男の脳味噌を解くように、ゆっくりと。ゆっくりと。
「やめてくれ……」
こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。こーん。
男がぽそりと呟くと。また音がした。
「お願いだから……」
コーン。コーン。コーン。コーン。コーン。コーン。
音が変わった。最初のやわらかい音とは違う。
より一層、甲高く、葉と葉が擦れるざわついた音より甲高く。
より一層、生々しく、木と木の間を通り抜ける風より、生々しく。
まるで、薄くなった酸素の中に閉じ込められたかのように、どろどろと。
「やめ゛でぐれ゛ぇぁぁぇぇああああえ!!」
コーン。コーン。コーン。コーン。コーン。コーン。
ざわざわざわザワザわわざわざ和沢ザわざわ座わざわざ和
風が。風が。森の中で高く。風が風が風が風がヵzえkaze
可愛らしく、戯れ気味に、気が、狂うみたいに。
「嗚嗚嗚嗚嗚゛嗚゛ギャ嗚嗚嗚嗚嗚嗚ああああああ!!!」
男が、ごろごろと体を芋虫のようにくねらせて、転がった。
木の根元という根元にぶつかって、落ち葉をだらしなく身に纏わせて。
こーん。こーんコーンコーンコーンコーンこーんコーンこーん
時計が、合わなくなった。コンパスが、狂った。それはさながら、樹海の迷い人のように。
さて、音もやんだ。森の中から抜けよう。
男は、千切れた両耳を、森へ置き土産のように、そっと添えた。
毒の露 亡者の森に したたりて
轟く音を 耳に聞かせや