ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.18 )
- 日時: 2011/12/18 20:37
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 4.fDTnfO)
- 参照: 第三話 遭遇 Red Side
今回RAINBOW SIDE省略です
「ネロの……後継者……だと?」
「うん。あれ? お姉さん聞いてない? 僕はそんな感じで言われたんだよ」
「聞いたって……誰からだよ?」
「仮面の人たちだよ」
その瞬間に、質問攻めしたレナは一旦口を閉じた。流石に年端もいかない少年を問い詰めるのは短気な事だと思ったからだ。
「仮面の?」
「うん、ちょっと前まで僕を育ててくれたんだ」
レナには、彼が言う仮面の人たちというのが誰なのか、さっぱり分からなかった。彼を、呪われた少年をつい最近まで育てていた、ならばなぜその者たちは死することが無かったのかと考えても答えが出てこない。それに自分はネロの後継者と呼ばれたが、ネロという名の人間に会ったことすら無い。しかしレナは思い出す。目の前の少年は、自分があの呪いを受けていると言い、レナが同じだと告知したのと共に、ネロの後継者だと宣告した。
まあ、この段階でなんとなくの想像はできていた。まず、この少年、名は確かスティークだったこの子、そして当然のように自分は虹の呪いにかかっている。それでいて、スティークは“ネロの後継者”という別名を持つ、虹の呪いに侵された者を探していた。なぜだかは分からないが、呪いが発動しなかった“仮面の人たち”にそうしろと言われたから。
「で、そいつらはお前にどんな風に命令した訳だ?」
「別に命令……って言わないと思うよ。確か……」
〈君には、周りの人を殺してしまうものが体の中に入っている。だからしばらくは友達なんてできないかもしれない。それでも、たった六人だけ例外がいる〉
そう、回想して説明した後にレナの方をもう一度よく見た。一人目の、紅い髪の颯爽とした女の人、その条件にぴったりはまっていた。短い髪を風になびかせて、華麗に舞うようにブルエの男に快勝したのはまさに神業で、颯爽としていた。
だから、彼女はネロの後継者であり、スティークが今まで恋い焦がれてきた、友達と呼べる存在に成り得る数少ない人間なのだ。でも……そのようにスティークは心配する。そういう友達になるかどうかの最終的な決定権を握っているのはレナなのだから。いくら自分が誠意を示して、心から懇願したとしても、レナが信用できないから嫌だと一言で切り捨てたならば自分には止める権利が無い。幼いながらもその程度は当然の事だと納得していた。
「お前……親は?」
「死んじゃったよ。聞いてた……でしょ?」
「ああ……そうだった、な」
「お姉さんは?」
「一緒だよ。死んじまった。五年前のあの日」
二人の間に静寂が訪れる。二人とも共に、自分の父母がいなくなった時の事を思い出していた。スティークは後から亡くなったと連絡を受けた。レナは我が眼前で両親が揃って黒い人形になった。何やら深い後悔と懺悔の思いの乗った表情をしていた。なぜだろうかと誰に問うても、答えてくれる者は誰一人いなかった。唯一解答を知る人がいなくなったのだから。
スティークの場合、一本の電話が入ったかと思うと、番号を確認した後に父親が出た。そして二言三言喋ったかと思うと、いきなり声を荒げてひどく驚いていた。とりあえず分かったと父は言い残し、受話器を置いた。そして何かから逃げるように部屋を出た。母さんを連れて。その後にスティークに、両親が死んだと報告が入る。そしてその翌日に“仮面の人たち”が来たのだ。
「…………なぁ」
最初にその静寂を破ったのはレナの方だった。俯いていた顔を、スティークは上げる。答えが出る、そう思った彼は少し緊張した。
「今までにあの日みたいな事に遭遇したの、何回ある?」
「あの日っていつ? 助けてくれた日の事?」
「そうさ。で……あるのか?」
「ううん、初めて。だからどうして良いか分かんなかった」
しばしの会話の途中にまたしてもレナは黙り込んだ。どうしたのだろうかと、スティークは顔色を窺うが、人生経験の少ない彼に年長者の心情を表情から察するなど、不可能な話だった。
「お前、どうやって暮らしてる?」
「アラウンド・バーンで食べ物貰って生活してる」
「寝る時は、どうしてる?」
「アラウンド・バーンのすぐ傍で大概は寝ているよ」
もう一度、沈黙を破ったのはスティークに対する質問だった。衣食住の住について。衣については訊くまでもないと判断したレナはようやく答えを決めた。ゆっくりとその口が開く。結果がどう出ても良いように幼き彼は身構えた。それに気付いたレナは優しく話し掛けた。
「そんなガチガチになんなよ。アンタが何を心配してるかは知らないけど、生憎私はね……目の前にいる助けを求める小さい子供を見捨てる程の鬼じゃないよ」
「じゃあ……」
「一緒に行ってやるさ。前みたいな連中からは私が守ってやる」
その瞬間、緊張と恐れで暗く冷たく固まっていた彼の顔がパッと輝いた。まるでこの世の終わりが訪れた時のように見えていた、沈んで黒みがかったように見えていたオレンジの瞳は、普段の夕日のような色を通り越して、より鮮やかな昇る途中の朝日のように見えた。雲の隙間から射し込んだ日が、スティークの全身に当たる。その日光を受けて煌めく橙色の髪の毛は、言い様が無いほど美しかった。
「本当に!?」
「マジだっての。アンタが嫌なら別にいいけど」
「そんな訳無いよ。嫌ならオイラは今、こんな事頼んでないし」
「それもそうか」
レナは軽く微笑した。そして思い出す。自分の事も少しは言っておかないといけないな、と。それ以前に目の前の少年に至っても名前しか知らないのだが。
「アタシはレナ。レナ・レッディ・ローズ」
「オイラはスティーク・オーレン・サンセット」
「ま、それだけ分かりゃ良いだろ。で、どこ行くよ?」
「それが、分かんないんだよね。どこに行けば何とかなるなんて誰からも聞いてないし」
自分は聞いているのに、なぜスティークは聞かされていないのだろうかと、レナは首を傾げた。だが、やはりそんな理由は彼女が知る由も無い。
「呪泉境に向かえばいいんだ」
「……? どこにあるの?」
「分からない……だから探してる」
「じゃあさ、大きな街に行ってみようよ」
どうせ行き先が分からないならば、人が多い所の方が分かりやすいのではなかろうかと思ったのだろうか、スティークはそのように進言した。
「そうだな、良い考えだ」
顎の辺りに手を添えて、最寄りの大都市は……と何度も呟きながら思い浮べているようだ。不意にレナは顔を上げて、少し声を荒げた。どうやら見つかったようだ。
「つまりは、アバブ・オーシャンだな」
〈to be continued〉
次回、グリーンサイド