ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.39 )
日時: 2011/12/18 10:26
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

5.

目の前で青年はほほ笑んでいる。手には、血まみれのナイフを持って。

激痛に叫ぼうとするが、声が出ない。肺の空気がすべて、切り開かれた喉から出て行ってしまう。あまりの苦しみに、紗江は涙をぼろぼろとこぼした。

青年はくすくすと笑いだした。そして、再びナイフを振りかざし、今度は傷口をえぐった。

あまりの痛みに紗江は絶叫…できなかった。喉から空気がすべてもれ、口からはひゅう、という音しか出ない。

苦しい。ねえ、ママ。どうして。どうしてそんなに時間にルーズなのよ。ママがいてくれれば、私は、私は…。

そんな思いを抱きながら、紗江は倒れた。恐ろしい形相をしたまま、紗江は動かなくなる。

++++++++++++++++++++++++++++++++

「…いい方法だった。サスペンス小説は読んでみるものだね。」

朔矢は笑いながら、紗江の遺体を手袋をした手で部屋に引きずり込んだ。

以前、篠原 麻衣を殺した際に使った手袋だ。今、二人分の血を吸った手袋を、朔矢はいとおしそうに眺める。

紗江を部屋に入れると、朔矢は部屋の隅から何かを回収した。

「仕掛けておいてよかった。これがなくっちゃ、紗江さんのお母さんに見つかってしまうかもしれなかったからね。」

それは盗聴器だった。朔矢はそれをしまうと、紗江の遺体に目を移した。

目はかっと見開かれ、口は大きく開いている。喉には赤い口が開き、とめどなく血が流れている。

朔矢は筆をその血に浸して、料理のならんだテーブルに向かった。

そして、そのテーブルに、大きくアルファベットを書く。

 「F」