ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.51 )
日時: 2012/01/08 10:29
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

5.

倒れた途端、背中にだれかがまたがった。突き刺さったものが引き抜かれる。そして、再び、えぐるように突き刺さる。

「ぎゃああああああっ!!!!!」

叫び声をあげる。その途端、口の中に何かをつめこまれた。叫び声は、くぐもったようにしか聞こえなくなる。

また突き刺さったものが引き抜かれ、背中にまたがっていた誰かが立ち上がった。ブーツをはいた足で軽く蹴飛ばされ、あおむけになる。

そこには、顔を覆面のようなもので覆った人間がいた。血まみれのレインコートを羽織っていて、男か女かわからない。ただ、ブーツの形からすると、女だろうか。

女は血まみれの包丁を握っていた。覆面からのぞく目は冷たく笑っていた。恐怖の叫び声を何度あげても、口の中のもののせいでくぐもった音にしか聞こえない。これでは、近所の人が気づいてくれない。

女は包丁を振り上げ、原谷の左胸…心臓に、突き立てた。

断末魔の叫び声も、くぐもって聞こえない。原谷は女を凝視したまま、死んだ。

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覆面を外し、レインコートを脱ぐと、そこには望美が現れた。

玄関に広がっていく血の海を見ながら、望美は10年前のあの光景を思い出した。

父と母、陸斗と江梨子が血まみれで倒れていた、あの玄関。血の海の中、恐ろしい形相で父と母を刺し貫いた荒木 優太。今も監獄にいる荒木。そう、お前のせいだ。お前のせいで、私たちは「遺族」を恨んでいる。そして、そのせいでこうやって人を次々殺さなくてはならない。そう、全て、荒木、お前のせいだ。すべて、すべて、すべて…。

原谷の断末魔の表情。父も、これに似た表情をしていた。あの時、朔矢が助け出してくれなかったら、私もこんな顔をして、血の海の中に横たわっていたかもしれない。いや、荒木は結局父と母を殺したかったのだから、私と朔矢は殺さなかったかもしれない。でも、きっと恐ろしい目にあわされたに違いない。

持ってきた筆をとりだし、血の海に浸して、テーブルへ向かう。その上には、スーパーの弁当と、英語版のハリー・ポッターが置いてあった。

くっ、と笑いながら、望美はハリー・ポッターの表紙の絵を消すように、次の文字を書く。

「R]