ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.58 )
日時: 2012/02/02 10:22
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

3.望は暗く、朔は明るく

日は落ち、暗くなった河川敷に、望美が立っていた。

道路の蛍光灯以外、特に明かりはついていない。望美は川べりに立ち、じっと川の流れを見つめていた。

10年前。家族四人でよく来た河川敷。その思い出が、望美の頭の中に渦巻くように流れてくる。

ふと、望美の頬を生暖かいものがつたった。開いていた両手のひらをぐっと握りしめる。

…失いたくない。

…もう、失いたくない。

朔矢。私の兄。たった一人の肉親。

望美はみずからを抱きしめる。

ねえ、朔矢。この復讐が、終わったら…。

涙が、あとからあとから望美の頬をつたう。

このことは、今まで考えないようにしてきた。考えれば、不安になってしまうから。まだ、復讐は残っているから…と、自分でそのことを考えないようにしてきた。

でも。

もう、あと3つになってしまった。

今回の復讐が終われば、私と朔矢に残された復讐は1つずつになってしまう。

復讐は、もうすぐ、終わる。

朔矢、あなたは。そして、私は。

復讐が終わったら、

どうなってしまうの?

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望美が暗い河川敷にいたころ、朔矢はネオンサインの光る繁華街にいた。

朔矢の隣には、綺麗な女性がいた。黒いストレートの髪。白いセーター。

「さ、後はあれだけだね。」

朔矢はそう、女性に言った。女性はうれしそうにうなづく。

「ありがとう。よく覚えてたね。」

「香織の好きなものくらい、知っておかないと。」

朔矢はそう言って、女性…香織の手を引いた。

「さ、行こう。電車に遅れるとまずい。」

「そんなに田舎なの?」

「まあね。でも、田舎の方が星はよく見えるんだよ。知ってる?」

「やだ。知ってるにきまってる。」

香織はまぶしい笑顔を朔矢に向けた。朔矢はほほ笑む。

…さあ。行こう。

あそこへ。あの、死の町へ。