ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.59 )
日時: 2012/02/02 10:38
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

4.

小さな駅から出て、土手に沿って進む。目の前を歩く彼を見ながら、内海 香織はほほ笑んだ。

蛍光灯の明かり以外は何もない、静かな河川敷。空を見上げると、黒い空に星がたくさん瞬いていた。

「わあ…。」

「じゃーん。」

おどけたように、香織の彼…弓月 朔矢が言う。香織は朔矢の手をぎゅっと握り返した。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

朔矢はそう言って、香織の手を引いた。

…と。

(え…!?)

朔矢は、ふいに人影を見た。

川べりに、誰かいるようだ。セミロングの髪。黒いコート。

あの格好、姿は、どこかで。

「…。」

朔矢は無言で携帯を取り出し、ある電話番号にかけた。香織は星に夢中で、気にも留めない。

ふいに、人影の方で、携帯の着信音らしき音が鳴り始めた。朔矢はほっと安堵の息をつく。まさか、ここにいたとは。

「…香織、座って見ようよ。」

朔矢はそう言って、腰を下ろした。

「あ、うん。」

土手に腰をおろし、香織は空を見上げた。その様子を、朔矢は見つめる。

右手で香織の左手を握り、左手で、バッグを探る。

朔矢の口元が緩み、左手が何かを取り出した。

それを香織に見られないよう、後ろに隠す。

…僕は。

僕は、このためだけに、この女と付き合ってきたんだ。

そう、このためだけに…?

本当に…?

…本当だ。躊躇する必要は、ない。

朔矢は右手をほどく。香織がふっとこちらを見た、その瞬間。

後ろに隠し持っていたものを右手に持ち替え。

香織の驚く顔の下の、白い喉めがけて。

ためらうのを、恐れるように。


びしゃっ!!


蛍光灯の明かりできらめくナイフを。

…突き刺した。