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Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.60 )
日時: 2012/02/05 11:04
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

5.

香織が驚愕の表情を浮かべ、倒れた。

口をぱくぱくさせながら、朔矢を見る、その目。思わず朔矢は目をそらした。

やがて、香織は動かなくなった。

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白いセーターの襟に、喉から流れる血が染みていく。土手に生えた草も、血に染められていく。

朔矢はふう、と息をつき、香織を見やった。

その口元が、ふっと歪む。

「…やっぱり、香織は赤が似合うよ。」

朔矢は笑って、河川敷に降りていく。

川の水で血まみれの顔を洗っていると、誰かが近づいてくる気配がした。

「…朔矢?」

「誰か」が朔矢のすぐそばに立ち、話しかけてきた。

「やあ、望美。」

朔矢は頭をぶるんと振ってから、望美に向き直った。

まだ少し血が付いていたのだろう。望美が困ったような、躊躇するような、怒ったような…そんな顔をした。

「内海香織、殺したよ。」

そう言うと、望美は無言でうなづいた。

「見てた。急に携帯の着信音が鳴るから、あれ?と思ってみたら、朔矢からで…で、ふっと土手のほうを見たら、朔矢が知らない女の人と歩いて…で、それから、殺すまでを、見たよ。」

「そうか…。」

朔矢は香織の遺体のほうへ歩き出す。望美も着いてきた。

草むらの中に横たわる、香織。白いセーターの襟は赤く染まっている。

「ねえ、望美。この子、何色の服が似合うと思う?」

ふいに、朔矢はそう聞いた。

望美は少し考えるようにしてから、

「…赤。」

「やっぱり、さすが僕の妹。わかってくれた。」

朔矢は笑う。そして、もう一度香織を、しげしげと眺めた。

この町。この河川敷。いまわしい記憶も、懐かしい記憶も、この河川敷にはある。

「…望美。10年前のこと、聞きたい?」

「…うん。」

朔矢が問いかけると、望美はしばらくしてからうなづいた。

朔矢はいまわしい記憶を、懐かしい記憶を、呼び起こした…。