ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.61 )
- 日時: 2012/02/05 11:22
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
6.
あの男…荒木優太は、容赦なく朔矢と望美の母、江梨子に刃物を突き刺した。
「逃げて!!」
母の声のすさまじさに、朔矢は尻もちをついた。
と、隣で望美が倒れた。
「望美!?」
朔矢は必死で妹を揺り動かす。でも、望美は冷や汗を浮かべながら、うめいただけだった。
気を失っているんだ…と気づいた途端、朔矢の体中に恐怖がこみ上げてきた。
逃げなくちゃ。逃げなきゃ、僕も望美も殺されてしまう…!!
朔矢は男の方を見た。男は声を押し殺して笑っていた。その目は、父と母に向いている。朔矢と望美のほうを向いている様子はなかった。
朔矢は当時10歳の望美を抱えて、ベランダに向かった。
窓をすごい勢いで開け放ち、ベランダに出ると、柵を乗り越え、一目散に走った。
夜遅くだった。蛍光灯の明かりしかない暗い道を、はだしで、10歳の妹を抱えて、朔矢は走った。
体中を、恐怖が駆け巡っていた。速く、速く、速く逃げなきゃ。逃げろ、逃げろ、あいつが追いかけてくる、逃げろっ…!!
走って、走って、朔矢は河川敷まで来た。土手を走っていると、ふいに足を滑らせた。
「うわあっ!?」
なすすべもなく土手を転がり落ちる。転がり切った時、朔矢の意識はもうろうとしていた。
息がきれ、体が動かない。すぐ隣で横たわるる望美に、手を伸ばす気力さえなかった。
速く、速くしなきゃ、速く逃げなきゃ、あいつが、あいつが、あいつが…!!
そう思っているうち、どんどん意識が遠のいていった。
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そして、朔矢は孤児になった。
父と母はもういない。父方と母方の祖父母が協力し、望美を引き取って育てることになった。が、成長期の子供二人を養えるほど、両祖父母の財政力はなかった。
朔矢は自ら進んで孤児院に入り、望美は祖父母に引き取られた。10年前、望美と朔矢はこうして、離れ離れになった。
そして、10年後、兄と妹は、再会した。