ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月と復讐とチャットルーム ( No.64 )
- 日時: 2012/02/12 10:24
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
2.冷めきった目
懐かしさと、驚きの混ざった表情で自分を見上げる50代の男を見て、望美も懐かしさと驚きをおぼえた。
「お久しぶりです…隼人おじさん。」
「はっはっは!!まさか君たちにまた会えるなんてなあ!!10年前と変わってないなあ…」
「あの…朋崎さん?この子たちは…?」
30代くらいの男が怪訝そうに話しかける。
「ああ、この子たちは…。」
そこまで言ってから、朋崎は口をつぐみ、再び、開いた。
「どこか入らないか?こんなところで立ち話もなんだし。」
「よろしかったら、うちに来ますか?丁度、兄と帰るところだったんで。」
「そうか、そうしてもらえるかな、望美ちゃん。」
「はい。」
望美はうなずいて、朔矢、朋崎、30代の男を連れて、歩き出した。
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「すまんね。急に押しかけてしまって。」
「いえ、気にしないでください。」
望美のマンションの部屋で、4人はテーブルを囲んだ。
「さて、と。じゃあ紹介しよう。こいつは俺の部下の滝亮介だ。」
朋崎は30代の男の肩を叩いた。望美と朔矢はちらりと視線を交わした。この男…まさか…?
「…で、この子は弓月朔矢君。この子がその妹の望美ちゃん。俺の親友の子供で…10年前の事件の遺族だ。」
朔矢がはじかれたように朋崎をみた。その咎めるような視線に気づいたのか、朋崎は先ほど落とした書類の束を朔矢に差し出した。
「朋崎さん!?」
「黙っていろ、滝。この子たちには教えとかなくちゃならん。この辺の、一連の事件のことを…。」
「しかし…。」
朔矢はもめる二人を無視して、渡された書類を手に取った。望美も横からのぞきこむ。
「…被害者リストか。」
10年前の事故の被害者と、遺族の名前が書かれたリスト。そして…次の紙を見て、朔矢と望美は目を見合わせた。
そこには、二人が起こした殺人事件の詳細が事細かに記してあった。更には、現場に残された血文字も。
今日、自分達は5文字目を書いてきた。内海香織の白いセーターの上に、大きく、「A」と。
「R」「E」「F」「R」「A」
この五文字の最後の文字は、まだこの書類には記されていない。それは当然だ。まだ内海香織が死んでから、2時間くらいしかたっていないのだから…。
トゥルル…トゥルル…
「はい。朋崎です…え?またか!!」
朋崎の語調が強くなる。朔矢と望美は冷めた、かすかに笑った目で、それを見た。
「わかりました。すぐ現場に向かいます。はい。…はい。では。」
ピッ…
電話を切るや、朋崎は滝に目配せし、朔矢と望美のほうを向いた。
滝が一足先にマンションを出ていく。それを見やりながら、朋崎は口を開いた。
「実はな、10年前と同じような、殺害現場に文字を残す事件が連続してるんだ。俺たちは荒木に恨みを持つ奴が起こした事件だと見ている。それがその資料だ。持っていていいよ。だが、決して口外しないように。文字のことはまだ極秘なんだ。わかったね?」
「…はい。」
「うん。どうやらまた誰か殺されたらしい。すまんが、俺はこれで失礼するよ。すまなかったね。」
「いえ、気にしないでください…頑張ってくださいね。」
「ああ。」
早口でまくしたて、朋崎はマンションから飛び出した。
その姿を、望美と朔矢は冷めた目で見つめていた。