ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月と復讐とチャットルーム【参照500超え!!返信80突破!】 ( No.88 )
- 日時: 2012/06/10 13:00
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
5.望美の消失
朝乃から真夜に電話があったのは、真夜が大学を休んだ、その日の午後だった。
「…もしもし?」
ーあっ…真夜…。
朝乃の声が耳元で聞こえ、真夜は何となく安堵した。悲しみの底にあるときは、親しい人の声が無性に聞きたくなるものだ。
しかし、朝乃の声は普段と少し違っていた。せっぱつまった…そんな声をしている。
「どうしたの?」
ー望美が。
そのことばを聞いた途端、真夜は受話器をぐっと握りしめた。
「望美ちゃんがどうしたって?」
ーいないの。あの…真夜のお父さんのこと言ったら、急に真っ青になってラウンジを出ていっちゃって…たぶん、ショックだったんだと思うんだけど、やけにとり乱してて…。で、授業が終わったからどこにいるのかと思って電話かけてみたんだけど、留守電になっちゃうの…!!心配で、望美のアパート行ってみたんだけど、望美、帰ってないのよ!!
最後は悲鳴のようだった。真夜は今聞いた言葉を、必死に頭の中で反復する。
「望美ちゃんがいそうな場所は?」
ーわかんない…でも、心配なんだ…望美…大丈夫かなって…だって電話にも出ないのよ…?
「わかった。朝乃…心配するな。僕が、探してみるから。」
ーし…真夜、ごめん。真夜だって…。
「いいよ。言いたいことはわかる。けど、やっぱり僕も心配だから。それに…。」
それに…。
三度も、大事な人を失いたくないんだ。
朝乃との電話を切って、真夜は一度深呼吸した。
嫌な予感が…していた。普通ならただショックでどこかをほっつき歩いているんだろうと思うだろうけれど、そう思えない。
弓月望美。真夜の、想い人。
ダウンを羽織って、ドアを開ける。
行くあてがあるわけではない。でも、ひとつ、場所が思い浮かんでいた。
…昔、ここで遊んだことあるんだ。
本当に悩んだりすると、ここにくるの。ちょっと、来るまでが大変だけどね。
急がなければ。あの場所までは遠い。
父を亡くした悲しみを振り切って、真夜は駅へ向かった。