ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月と復讐とチャットルーム【参照500超え!!返信80突破!】 ( No.89 )
- 日時: 2012/06/10 13:23
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
6.満月が向かう先
ドアを閉める前に、そっと、振り返ってみた。
眠っている青年…望美の兄、弓月朔矢。
望美は泣きそうになるのをこらえながら、もう一度、しっかりと朔矢を見た。
人生を狂わせられたあの日。そして10年後、再会したあの日。
人生を狂わせられる前の、楽しく幸せだった日々…。
…さようなら。
この世界の、全てに。
「さようなら…。」
ぽつり、とつぶやき、望美は朔矢の部屋のドアを閉める。
外には、綺麗な三日月が昇っていた。
+++
窓の外に過ぎていく、夜の風景。最初はネオンサインに照らされ、夜なのに明るく輝く風景も、いつしか蛍光灯がごくたまにあたりを照らしている暗いものとなっていく。
その頃になると、電車の客は減ってくる。ほとんど客のいない車両で、望美はそっと、3枚の写真を取り出した。
自分、朝乃、真夜の3人で遊園地に行った時の、3ショット。朝乃がふざけてとった、自分と真夜の2ショット。そして、10年前、あの場所で撮った家族写真。
3枚の写真の中の自分は、笑っていた。楽しいと。人生がとても楽しいと。
なのに、今はどうしてそう思えないのだろう?
向かい側の席の窓ガラスに映る、自分の顔を見る。疲れ果て、悲しみをたたえた顔。笑顔の欠片もない、さびしげな顔。
同じ自分なのに。別人ではないのに。
サツジンッテ、ソウイウモノ?
+++
駅から出て、しばらく歩く。すぐに河川敷への道に入った。
夜に…それも、こんな夜中にここへ来たのは、2度目だ。
ゆっくり、ゆっくり、歩く。もっと速く歩いてもいいんだけど、今はこの雰囲気、空気を、思う存分楽しみたい。
川べりに降りてみる。ふと思いついて、川の水を子供のように跳ねあげてみた。
パシャッ…という、独特の音が響き、次の瞬間、消える。
揺れる川面と、そこに映る歪んだ自分を見るうち、望美は泣きたくなってきた。
「お父さん…お母さん…!!」
ごめんなさい。こんなことをする娘に育つなんて、思ってもみなかったでしょう?この川面に映った私のように、本当に私が歪んでしまうなんて思ってなかったでしょう?望んでなかったでしょう?
泣きながら、立ちあがる。ごめんなさい、お父さん、お母さん、朔矢、朝乃、真夜君、私があやめてしまった人たち、みんな…!!
鞄とコートを投げ捨て、望美は水面を見つめ、息をとめた。
冬の寒さで、冷たくなった川へ望美が身を躍らせようとした、その時。
「…嘘。」
望美の体は、真夜の胸の中にあった。