ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月と復讐とチャットルーム【参照600超え!!返信80突破!】 ( No.90 )
- 日時: 2012/06/24 10:00
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
7.
やっぱり、と思った。
真夜が来た時、まだ望美は来ていなかった。悩む。もしかして、望美はここに来ないのではないか。
(…いや。)
きっと、来る。よくわからないけれど、真夜は確信していた。
彼女が来たら、慰めてあげたい。彼女の心を一番いやしてあげられるのは、実際に父を亡くした僕だろう。
そう、思ってやってきたこの河川敷だったが、真夜は予想外の望美の行動に出くわした。
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「…なん、で。」
腕の中で、望美がかすれた声で問いかけてきた。真夜はそっと腕を話しながら、言う。
「朝乃から聞いたんだ。望美ちゃんが行方不明だって。僕が父を殺されたことを聞いたら、真っ青になって大学を出ちゃったって…。家にもいないんだって電話してきたから、僕も心配で。」
「なんで…ここが?」
「前に望美ちゃん、言ってたじゃないか。『本当に悩んだりすると、ここにくるの。』って。」
言うと、望美の口から軽い吐息が漏れた。うつむいて、唇をかみながら、こちらに向き直る。
「…真夜君。」
望美の口が、語り始める。
「真夜君のお父さんを殺したのは…私の兄だよ。」
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全て、話した。
望美は、全て、話した。
自分と朔矢が、遺族に復讐するため、7人の人間を殺したことを。
その7人のそばに、「REFRAIN」のアルファベットを一文字づつ書いていったことを。
その被害者の中に、あの西村理事長、そして真夜のお父さんも含まれていることを…。
「…許してもらおうなんて、思ってない。今更…本当に今更、自分たちのやったことの愚かさに気付いて…バカだよね、私。だから…」
「死のうとしたの?」
真夜はまったく動じていなかった。いつも通りの口調で、語りかけてくる。それが逆につらくて、望美はぼろぼろと涙をこぼした。
「…それって、無責任じゃないの?」
「むせき…にん…?」
真夜君は憤ってもいないし、睨んでもいない。小さな子供に諭すように、優しく、問いかけてくる。
「殺したなら、背負っていくのが、本当の償いだよ…僕個人の考えだけどね。」
そう言って、さびしげに笑う。真夜のそんな顔を見て、望美は嗚咽しながら、叫んだ。
「どうして…どうして、私にそんな…殺したのよ?私は、西村理事長と真夜君のお父さんをっ…!!」
最後まで言い終わらないうちに、再び、ぬくもりにつつまれる。
「…僕は。」
抱きしめられながら、真夜君の言葉に耳を澄ました。
「怒ってないといえば、嘘になる。でもね、これって、どっちかが悪いわけじゃないと思う…双方、悪いと思うよ。」
コートを着ていないせいで冷えてきていた身体が、次第に温まってくるのを感じながら、望美はせわしなく息をしていた。
「復讐は終わらない…誰かが、どこかでやめない限り。『REFRAIN』…って言ったよね。音楽でいう、『繰り返し』。お兄さんは、心のどこかで思ってたんだと思うよ。どこかで誰かが、繰り返しを終了させる『終止符』を打ってほしいって。」
どくん、と心臓がはねた。
ーあ、こらこら、朔矢!!もう繰り返しはおしまいだよ。ー
ーなんで?ほら、繰り返し記号。ー
ーその前に、終止符があるだろ?曲はここでおしまい。ー
父、陸斗が朔矢にピアノの手ほどきをしていた、あの会話。
結局、朔矢はピアノは飽きて、やめてしまったのだけれど。
「…ありがとう。」
ごめんなさい、でも、すいません、でもない。
この言葉が、真夜君に対する一番の詫びだと思った。