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Re: 月と復讐とチャットルーム【参照600超え!!返信90突破!】 ( No.93 )
日時: 2012/07/08 10:16
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

エピローグ 月と復讐とチャットルーム

「パパあ!!パパあ!!」

甲高いわめき声とともに、今年五歳の真昼が真夜の部屋に入って来た。

「どうした?」

「あのね、ゆーのがね、大泣きしてるの!!とにかく、来てよ、パパ!!」

真昼にせかされ、真夜はペンを置いて席を立つ。ゆーの、こと夕乃は、今年朝乃が産んだ第二子だ。本当はゆーの、ではなくゆの、と読むのだが。

「夕乃?」

夕乃が寝かされている部屋を覗き込む。大声で彼女は泣いていた。

「おお、よしよし。よしよし。」

抱き上げると、ぴたっと泣き声は止む。ふっくらとした手で夕乃は真夜の頬をはさみ、天使のような微笑みを浮かべた。

「パパがだっこするといい子になるのになあ〜。僕じゃだめなの?ゆーの。」

「あばあっ!!」

にこにこと笑って、夕乃は手をぱたぱたと動かした。真昼はちぇっ、と言って、真夜に向き直った。

「パパ、ママは?もう帰ってくる?」

「どうかな、そろそろ…。」

真夜が言いかけた時、インターホンが鳴った。

「ママだっ!!」

真昼は一目散に駆け出していく。真夜も夕乃をあやしながら、玄関に向かった。

「ママ、お帰り!!」

「ただいま、真昼……夕乃、いい子にしてた?」

「途中で泣きだしてね、真昼があわてて飛んできた。」

「あら、大変。ごめんなさい、あれ、書いてたんじゃないの?」

「大丈夫さ。ほーら、夕乃、ママだぞ。」

「あばあっ!!」

「おお、よしよし。いい子にしてまちたか?」

朝乃の腕に夕乃を預けると、真夜はふっと息をついた。

「ごめん、書いてくる。」

「いいわよ。夕乃と真昼は任せといて。真昼、パパに迷惑かけちゃだめよ。」

「はーい。」

3人がリビングに消えるのを見届けて、真夜はかすかにほほ笑んだ。

大丈夫。君たちの願いはかなっているよ……朔矢さん、望美ちゃん。

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弓月朔矢様、弓月望美様

こんにちは。もうあれから10年立ちますね。

今年、朝乃は第二子を出産しました。名前は「夕乃」。「ゆの」と読みます。これで朝、昼、夕、夜がそろいました。次が産まれたらどうすればいいんだ。「弥宵やよい」とでもつけますか(笑)

今、第一子の真昼まひるは5歳です。真昼と夕乃は5歳差の兄妹。…奇遇ですね、朔矢さんと望美ちゃんと同じなんです。

あれ以来、今のところ復讐劇は起こっていません。でもいつ、繰り返し記号が現れるかわかりません。完全に終止符をうてるように…あなたたちの最後の願いがかなうように、僕は努力していきます。真昼と夕乃。5歳差の兄妹。この子たちに、復讐なんてない幸せな日々を授けるためにも。

最後になりましたが、どうかあなたたちが今、幸せでありますように。
空の上で、幸福でいられますように。
僕も朝乃も、心から祈っています。

…大切なあなたたちに、祈りを。

木下真夜、朝乃、真昼、夕乃

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今はもう誰にも開かれない、あるチャットルームがあった。

紺色の画面、白い文字。

最後のチャットは、こうなっている。


NEWMOON>もう、終わりにしようか。

FULLMOON>そうしよう。もう一生、離れ離れにならないようにも。


そこでチャットは終わる。

10年前に、記されたメッセージ。

誰も知らなくても、二人の生きた証は確かにここにあった。

<END>