ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 逸脱の世界deviation world ( No.1 )
- 日時: 2011/10/22 20:56
- 名前: 未来 (ID: HhjtY6GF)
世界が逸脱して、何日が経つだろうか─────。
地から空へと延びる幾多の黒煙。
人が住む地は紅蓮の炎に包まれ、蒼かったはずの空は黒煙の影響で黒ずんでいる。
当たり前のように歩いていたアスファルトは、罅割れ断層が歪んで地層の断面図が露となり、簡単に歩ける状態ではない。
家々はほぼ崩れ、高層ビルは倒れ、毎日歩いていた商店街は炎の道と姿を変えていた。
港は船が派手に乗り越えて魚市場を破壊し、太平洋には無人の船が何艘も浮いている。
車道には何台もの車がミニカーのように並び、ひっくり返り、見渡す限り現実ではありえない光景となっている。
そして、日本の象徴ともいえる富士山の山肌には、旅客機や戦闘機が何機も墜落し、白と青のグラデーションを崩していた。
どうして、こんな事態に陥ったのだろう。
我々人間が、背徳的な行動を起こしたからか。いや、違うだろう。
地球の寿命か。いや、違うだろう。
神の悪戯か。いや、違うだろう。
『理由はない。』それが答えだ。今はそうしておこう。
この未曾有の事態で各国は防衛対策を練ったが、ほとんど意味のない行為であった。
どこが始点かさえ分からない。どうやって防衛しろというのだ。
やがて、時間が経つにつれて国々は崩壊の道を進んで行き、地球は姿を腐へと遂げて行く。
せめて、それだけで終わってほしかった。
なのに、逸脱の連鎖はそれだけでは収まらなかった。
******
罅割れたアスファルトから噴き出す高温の熱風。
『逸脱の日』を迎えて1日が経ち、東京も光景が変貌していた。
すでに一般市民は逃げたのか、街の周囲を見渡しても人影一つ見当たらない。
しかし、そんなゴーストタウンと化した東京渋谷のスクランブル交差点を横切る複数の人影が見えた。
「右OK、左OK。直進して、目の前の建物に入れ、そこで休息するぞ。」
深緑のヘルメット、迷彩柄の防弾服の上から防弾チョッキを着て、片手にはライフル。腰には種類様々の手榴弾。そして、真剣の日本刀。
そんな服装の4人は、ライフルを構えながら辺りを警戒しつつ、目の前の高層ビルに入った。
エントランスのガラス扉は割れ、地面のガラスを音をたてながら進んでいく。
建物内に入り、ライフルに搭載されているランプを付けて辺りを見渡す。
“危険物”がいないことを確認すると、4人は安堵の息を漏らしてライフルを握る手から力を抜かした。
「今日はここで一夜を過ごすぞ。」
隊長格と思われる年配の男性は3人に言うと、ガラスの破片に砂が塗れたソファーに座りこんだ。
と、その直後に隊員の一人である高校生ぐらいの年齢と思われる若い男性が、隊長格の男性に駆け寄ってきた。
「石嶋隊長、僕の自宅がこの付近なんです…その……もし、良ければ寄りたいのですが……少し!!少しだけでいいので。」
「駄目だ。そんな質問するんじゃない、お前も身に染みているだろう?そうやって私情を持ち込み、仲間たちが死んだ。」
日本精鋭防衛特殊進撃部隊第2班の隊長、石嶋真一郎は穴だらけの朽ちた天井を見つめながら言う。
━日本精鋭防衛特殊進撃部隊━
それは、「逸脱の日」を迎えて構成された自衛隊の上をいく特殊自衛隊。
国内で選ばれた人間たちが政府に招集をかけられ、その部隊は出来上がった。全部で5部隊。
しかし、その内4部隊はすでに通信が途絶えて生死不明。
唯一、彼ら第2班だけの生死が衛星写真を通して確認されている。
彼ら第2班の目的は、この状況の根源の捜査と残った市民の救出。そして、“敵”となる存在を殲滅すること。
だが、彼らが顔を合して、まだ約1日半しか経っていない。
人々の絆や信頼は、そんな短時間で深まり強くなるものではない。
でも、そんなことは言ってられない。
待つのは“非現実的な現実”と“絶望と闇に埋もれた世界”だけ。
その目で、現実を見極めろ─────。
そして、生き延びろ─────。