ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 逸脱の世界deviation world ( No.2 )
- 日時: 2011/10/24 19:10
- 名前: 未来 (ID: HhjtY6GF)
〜箱丸 優 side〜
朽ちた建物の奥、恐らく会議室か何かだろう。室内にはホワイトボードにロングテーブルが規則正しく並んでいる。
僕は、同じ班で一番仲の良い若森大地とこの部屋で休息をとることにした。
ライフルをテーブルの上に置き、背負っていた迷彩柄のリュックサックを乱暴に埃まみれの床に投げ置いた。
大地も同じようにし、リュックサックからパソコンを取り出してコンセントを繋ぐ。
「さ〜ってと、新しい情報は……ないか…………」
大地はパソコンの画面を見て、やや暗い表情を見せながら呟いた。
「ネット繋がってるの?」
「んあ?繋がってねえよ、俺の“超能力”忘れたのか?」
そうだった。また、忘れてしまった。
気を抜いたら忘れてしまいそうだ。
僕たちは進化を逸脱した。人間であって人間でない存在。
ハッキリ言って、今、この状況は夢のようである。つい約1日半前までは、僕はただの高校生だったのだから。
目の前でパソコンをいじっている大地だって、同じだ。
まだ、僕たちは普通の人だった。
******
「逸脱の日」前日
まだ、空が青く白い雲があった頃。
都立陵駕高等学校は、この日も通常通りの授業を進め、生徒たちは平和な学校生活を過ごしていた。
当たり前のように、周りにいるクラスメイト。廊下に出れば、顔見知りの生徒やちょっと可愛い女子生徒がいる。
嫌いな授業は寝てサボり、好きな授業は積極的に受ける。昼休みは、友達と弁当を一緒に食べて談笑で盛り上がる。
そんな毎日の繰り返し。たまに、明日は何か起こるかもって思っても、結局は今日は何も起こらない日々。
しかし、あの日だけは違った。
ガラガラガラッ──────…………
僕が嫌いな現代文の授業中、教室の扉が突然開き、スーツ姿の男女が教室に入ってきた。
「失礼します。政府の者です。このクラスにいる箱丸優君を緒形総理の許可を得て、強制連行させてもらいます。」
スーツ姿で華奢な体のインテリ男性は、単調な口調で授業中の教師に言い、クラスの一番後ろの席のグラウンド側に座る僕を見た。
男性は僕を見るなり、明らかに作り笑いと分かる笑みを浮かべて、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「さぁ、優君。一緒に来てくれ、一刻の猶予もないんだ。」
男性の後ろには、同じくスーツ姿でポニーテールの若い女性が立っている。
その女性の表情から、僕は物凄い寂しさと孤独感を感じた。
歩み寄ってくる気味の悪い男性よりも、なぜか後ろにいる寂しそうな表情の女性に視線が向いた。
「ちょ、ちょっと、困ります!何ですか急に!?」
教台にいた眼鏡をかけた現代文の教師は、男性に駆け寄り右肩を掴む。
クラスの中はいつの間にか静まり返り、僕以外の全員は男性と教師を目で追う。
「申し訳ございません。手を離していただけませんか?」
「政府の者?一体何様だ、何の理由があってズカズカと…………」
教師が右肩を掴む手に力を入れた、その時だった。
「邪魔する者は、排除できる許可も得ていますよ。」
男性は不気味な笑みを浮かべると、教師の手を払いのけ、教室のど真ん中で回し蹴りを喰らわした。
蹴りは教師の腹部に直撃し、悲鳴にならない声を出した瞬間に吹っ飛んだ。
「き、きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
女子生徒の悲鳴声で、クラスの中にいた全員が廊下に逃げ出す。
しかし、その中でラグビー部の主将である近藤秀明、僕の友人である武井勇次郎だけが残った。
吹っ飛ばされた教師は、机を薙ぎ倒しながら床に叩きつけられ、頭から血を流して気を失った。
男性はそんな酷い行為を起こしながらも、無表情で再び僕の方を見た。
「早く行こう、犠牲者が増えるよ。」
「行くんじゃねえ!!優!!」
茶髪で見るから不良の勇次郎は、僕に叫んで言う。
「川野先生を……。」
秀明は床に横たわる現代文の教諭、川野の名前を呟き、男性に向かって得意のラグビー部のタックルを喰らわせる。
「図体だけの木偶の坊が。引っこんでろ。」
男性はスーツの袖口から仕込んでいたスタンガンを取り出し、タックルを避け、秀明の首にスタンガンを押しつけた。
「あがっ!?」
バリバリッっという電気音とともに、秀明は気を失い床に倒れる。
「う……な、なんだよ…………お前……」
勇次郎は一瞬にして秀明を気絶させた男性を見て、思わず後ずさる。
僕は未だに何もできず、その時はただただ椅子に座ったままだった。
勇次郎は唇を噛み締めると、近くにあった傘立てから傘を取り出し、構えて男性に向かって走り出す。
男性は余裕の笑みを見せ、呆れ溜息を吐くと、振り下ろされた傘を片手でキャッチした。
「悪いことは言わない。早く、逃げなさい。」
「ダチ置いて行って逃げれるかよ!!ざけんな、インテリ野郎!!」
勇次郎は傘から手を離し、素早くパンチを男性の腹部に喰らわせる。
が、その直後に、通常では起きないことが起きた。
「……あ……れ…………?」
男性の体が煙に変わり、勇次郎は煙に変わった男性を通り抜けた。
「悪い子は、寝てなさい。」
男性は川野同様、バランスを崩した勇次郎の背中に強烈な蹴りを喰らわせた。
勇次郎は教卓を倒し、黒板に叩きつけられて床に倒れた。
「もう、大人しく連行されなさい。」
今まで一言も喋ることがなかった女性が、勇次郎が倒された瞬間に口を開いた。
「そうだ。大人しく来い。」
男性も、女性の言葉に続けて言った。
僕は何も逆らえず、ようやく席を立ちあがって男性に歩み寄る。
「大丈夫だ。君は選ばれたんだから、生き残る確率はそこらの餓鬼よりも高い。」
この時、まだ僕はこの言葉の意味が分からなかった。
だが、すぐに知ることになった。「逸脱の日」を迎えてから、僕は男性について行ったことを後悔した。
不気味に言った男性の体からは、まだ黒い煙が湯気の様に出ていた。