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Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.2 )
日時: 2011/10/22 23:18
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: XL8ucf75)

第1章—① 「錬金術師〜アルケミスト〜」


西暦2077年8月9日。
その日、歴史が大きく変わる事件があった。
「最後の審判」と今を生きる人はいう。


地球上にあるすべての大陸と島が、1つに融合したのだ。
時間にして4時間。4時間でそれまでの世界地図は無用の長物と化した。
そして奇怪なことに、その大陸融合の際、ただの1人も死者が出ることはなく、それどころか異変に感づいたものもいなかった。



無論、この現象を科学的に説明することはできず、全人類は巨大な1つの大陸で共同生活を始めることになった。
そうなると、当然始まるのが権力争いである。
「それまでの」各国の首脳や革命家、果ては過激派テロリストまでが己の覇権をかけて戦争を繰り広げた。
この「第3次世界大戦」と呼ばれる戦争によって、世界人口は5年で約10億人減少した。


しかし、その戦争に待ったをかけた者たちがいた。
それが錬金術師の集団「アルケミスト」である。
彼らは「錬金術」と呼ばれる古代の秘術を用いて、各地の紛争を次々と止めた。

ある時は局地的に雨を降らせて火薬を使えなくした。
またある時は不可視の障壁によって核ミサイルを阻んだ。

それまでの科学では考えられないような奇跡の力を前に、何かに憑かれたかのように争いを繰り広げていた人間たちは、たちどころに武器を捨て、アルケミストを畏れた。
以後、新たに大陸は区分され、元のように多様な人種による多様な国家が形成された。


争乱を鎮めたアルケミストは各地に散らばり、再び争いが起きぬよう監視する役名についた。



だが、この出来事より300年先、世を乱さんとする影が近づくことなど誰も、アルケミストですら知る由はなかった—














西暦2392年—



「ちくしょう、待ちやがれ泥棒め!」
無精ひげを生やした中年男の怒声が商店街に響き渡る。
「待てっつわれて待つバカがいるかよ! バーカ!」
宝石の詰まった麻袋を持って、額にバンダナを巻いた若い男が後ろ向きに走りながら中指を突き立てる。
「あんのやろ〜! おい誰か! あいつを捕まえてくれ!!」
中年男の声を聞いた通行人が次々に青年を捕まえようとするが、青年は意に介さずスイスイと横を通り抜ける。




「あらよっと!」
そして青年は急に空中へと飛び上がった。
「あん!?」
中年男は思わず足を止めて空を見上げる。
「オッサン! こいつはもらってくぜ!」
青年は不敵に笑う。
「何言ってやがる! お前はこれから俺に捕まるんだよ!」
中年男は男の真下に移動し、両腕を広げた。
が、青年はいつまでたっても落ちてこない。
「な、何ぃ!?」
中年男が驚愕に目を見開く。




青年は空中で静止していた。





「お、お前は……何者なんだよ…!?」
中年男が呆然とつぶやいた。
青年は左手を高々と突き上げ、大声で言った。







「俺は怪盗ジャンゴ様だ! 足りないオツムによーく叩き込むんだな!」