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- Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.4 )
- 日時: 2011/11/07 22:20
- 名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: afo7tZJq)
第1章—② 「錬金術師〜アルケミスト〜」
かつて、第3次世界大戦を止めたアルケミストたち—
彼らに戦争を止めるように呼びかけた男の名を、ハンニバル=シュヴァルツという。
ハンニバルはそれまで静観の姿勢を強硬に貫いていたアルケミストたちに対し、各地の惨状を伝え、今こそ自分たちが立ち上がる時だ、と檄を飛ばした。
当時より非常に優秀なアルケミストとして知られていたハンニバルのカリスマ性、そして粘り強い説得の結果、アルケミストたちは動くに至った。
アルケミストたちの活躍で大戦は終結し、そしてハンニバルを中心に世界各国の情勢を監視する組織「チェッカー」が発足し、初代総司令にはハンニバルが就任した。
以来、チェッカーの総司令にはシュヴァルツ家の当主が世襲することとなった。
そしてその名家、シュヴァルツ家第56代当主候補の名をジャンゴ=シュヴァルツといった。
彼もまた先祖に劣らない高い錬金術の技術を有してはいるが、彼には大きな問題があった。
ジャンゴは錬金術を悪用し、盗賊稼業を働いているのだ。
ジャンゴの実力を持ってすれば、銀行強盗など朝飯前である。
摩訶不思議な術を用いて華麗に宝を盗み出す。しかも狙うのは法を犯して手に入れた不正な物のみ。そして盗み出した宝は貧しい人々に配る—
まさに現代の怪盗として、連日ニュースで取り上げられた。
しかも盗まれた方は不正な金品を盗まれたとは、とても警察に言えずに泣き寝入りしてしまうので、それが正義の怪盗として貧しい人々の救世主、といった印象を強めた。
それで困ったのがシュヴァルツ家である。
仮にも名門中の名門の跡取りが、怪盗などではとても示しがつかない。
かといって当主候補は古くからのしきたりで1度決めたら絶対に変えられないので、シュヴァルツ家の者たちはジャンゴの破天荒な行動に手を焼いていた—
「だーっ! あのボンクラ息子があっ! また盗みを働きおっただと!?」
第55代シュヴァルツ家当主にしてジャンゴの父、ルイス=シュヴァルツは顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。
「まあまあ、あなた。落ち着きなさいよ。また貧しい人たちを助けたそうよ〜。母親として鼻が高いわぁ〜」
ジャンゴの母、ローザ=シュヴァルツが紅茶を飲みながら新聞の1面記事を指差す。
「お前は暢気すぎるわ! ジャンゴは第56代シュヴァルツ家当主候補だぞ!? こんなこそ泥のようなマネをして—」
「あなた……?」
ローザが負のオーラをかもし出しながらゆらりと立ち上がる。
「っ! ……は………はい、何でございましょう?」
高慢な態度とはうって変わって、ルイスが縮こまる。
「私の意見に反論があるのかしら〜? ……あ、そういえば試したい術がねぇ……」
ローザの右手が赤く光りだす。
「ひっ! ……フレアか…!? い、いえっ! 滅相もございませんっ!! ですからどうか家の中でフレアは勘弁してください!」
ルイスはほとんど土下座に近い形でローザに謝り倒した。
その後、ルイスがローザによって家に被害が出ない程度にお仕置きされたことは誰も知らない。
一方そのころ—
「へへ、今度も大漁だな!」
盗み出した宝石を精算し、麻袋いっぱいになった札束を抱えながらジャンゴはにやけ笑いを浮かべていた。
彼の今回のターゲットは、マフィアと結託し武器の密輸によって裏金を荒稼ぎしていた船乗りの男だった。
船の底に隠していた宝石類をジャンゴは根こそぎ盗み出し(ついでに密輸した武器を海に放り投げて)、その足で宝石を換金してきたのだった。
「さあて、お次はこれを配りにいきますか………今1番金が必要なのは……北の修道院か…」
ジャンゴが独り言を言いながら人目につかない路地裏に入った瞬間。
「…………っ!?」
ジャンゴは強烈な殺気を感じた。
振り向くと、誰もいない。
(上か………!?)
ジャンゴは上を見上げ、黒い影が上空から強襲してくるのを視認した。
そして黒い影はジャンゴに向かって何かを振りかぶった—