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- Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.5 )
- 日時: 2011/11/13 17:17
- 名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)
第1章—③ 「錬金術師〜アルケミスト〜」
ジャンゴに向かって何かが振り下ろされる—
ジャンゴはすかさず右手を頭の上にかざした。
「フロスト!!」
ジャンゴがそう叫んだ瞬間、空気中に氷の壁が広がった。
「え? うっそでしょ!?」
高いトーンの声が響く。
が、時すでに遅く、襲撃者は氷の壁に激突した。
「あちゃー………やりすぎたか」
ジャンゴが頭をかきながら黒いマントをまとった襲撃者を助け起こした。
「おい、大丈夫か?」
「んなわけ、ないでしょっ!!」
襲撃者はジャンゴの顔にパンチを入れた。
「ぐわっ! いってえ……」
ジャンゴが悶絶しているのを尻目に、襲撃者はすっくと立ち上がり、マントを脱いだ。
「ったく、相変わらずなんだから、ジャンゴは」
襲撃者は、桃色の髪の毛が印象的な少女だった。
「……ナーシャ!?」
ジャンゴは突然現れた、幼馴染を呆然と見つめることしかできなかった。
ナーシャ=ハミルトン。
ジャンゴの幼馴染で、すべてのアルケミストが通う、アルケミスト育成のための教育機関「ギルガンテ」の同級生でもある。
代々シュヴァルツ家の懐刀として仕えてきたハミルトン家の長女であるが、今シュヴァルツ家とハミルトン家は主従関係など結んでいないので、2人の間柄は仲の良い親戚といったところである。
そのナーシャがジャンゴの元に尋ねてきた理由は1つ。
ジャンゴの盗賊稼業を止めに来たのだ—
「いい、ジャンゴ? ギルガンテから召還命令が来てるわ」
ナーシャがきっぱりとジャンゴにとって最悪の事実を告げる。
「マジかよ!? ………またあのオバハンに説教食らうのか……」
ジャンゴががっくりと肩を落とす。
「いいじゃない! これを機に反省して、私と一緒に未来のアルケミストたちを育てようよ!」
ナーシャがジャンゴの手を固く握る。
ジャンゴはナーシャが極端な「教えたがりや」であることを思い出しつつ、その手をそっと振り払う。
「俺には教官なんて似合わねえよ。それにまだ未来のアルケミストとか考えるほど歳食ってないし」
「………それは私が歳食ってるといいたいわけ?」
「い、いやいや、そうはいわないけど……とにかく、俺は行かないよ」
ジャンゴは立ち上がり、遠くの崖の上に見える教会を指差した。
「あいつらも待って………ん?」
ジャンゴの動きが止まる。
「? どうしたの、ジャンゴ?」
「煙……か…?」
ナーシャも立ち上がって教会のほうを見ると、確かに煙が上がっている。
「まさか……あれ、火事?」
大通りを歩く通行人たちも、次々に教会を指差しながら話し込んでいる。
「…………くそっ!」
ジャンゴは一目散に駆け出した。
「あっ……待って!」
ナーシャもジャンゴを追い、教会に向かって走り出す。
2人が教会についたときには、完全に火の手が教会全体に回っていた。
かすかに助けを求める声も聞こえる。
「くそっ……勢いが強すぎる!」
「どうする? 思いっきり水かけようか?」
水に関する錬金術が得意なナーシャが、右手に力をこめる。
「いや、この火を消すほどの水だと、中の人間まで流されちまう………よし、俺があの扉に突っ込むから、体を水で覆ってくれ」
「本気なの? いくらジャンゴでもそれは—」
「時間がない! 頼む!!」
「っ………」
ジャンゴの勢いに気圧され、ナーシャはジャンゴに向かって右手を突き出す。
「マリンバブル!」
ナーシャが叫ぶと、大量の水が噴出し、ジャンゴ覆うように膜を形成した。
「すまない、ナーシャ」
ジャンゴは一言つぶやくと教会の扉を睨み付ける。
大きく息を吸い、そして—
「うおおおおおおおおおお!!」
ジャンゴはまっすぐに教会に突っ込んだ。