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- Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.6 )
- 日時: 2011/11/19 17:30
- 名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)
第1章—④ 「錬金術師〜アルケミスト〜」
燃え盛る扉とともに、ジャンゴは飛び込むような形で教会内に突入した。
教会内はほとんどが激しい炎と煙に包まれている。
「なんて勢いだ……!」
周囲の惨状に愕然としながら、ジャンゴは立ち上がった。
(みんなを探さないと……)
ジャンゴは炎を避けながら歩き始めた。
「おい! 誰かいないか!?」
ジャンゴは大声を張り上げながら、奥へと進む。
「………て…」
「!?」
ジャンゴの耳が、かすかな声を捉える。教会の奥の、居住スペースからのようだった。
(そうか………あそこには地下室が…!)
ジャンゴは地下室に向かって走り出した。
「ふう………む」
燃え盛る教会を観察しながら、マシュー=ヒジムは手にしたノートになにやら書き込んでいる。
「報告どおりの男だ……ジャンゴ=シュヴァルツ。素晴らしい。実に、素晴らしい………」
ブツブツと独り言を言いながら、マシューはペンの手を止めた。
「ロギヌスの再来………くく…楽しみな男だ…」
不気味な笑みを浮かべ、マシューは音もなく、突然消えた。
居住スペースへと踏み込んだジャンゴは、炎と煙の中からようやく地下室への扉を見つけ出した。
すでに火に覆われかけており、地下室まで火が回るのは時間の問題と思われた。
「急がないとまずいな………」
ジャンゴは地下室の扉に右手をかざした。
「スプラッシュ!」
右手をかざしたところから水が噴出し、扉の炎は消えた。
ジャンゴはすぐに扉を開けて叫んだ。
「おい! シスター! みんな!! いるか!?」
数秒たってから、若い女の声が聞こえた。
「ジャンゴさん!? ここです!」
(生きてる……!)
ジャンゴは急いで地下室の階段を駆け下り、声がした方向に向かった。
そして、部屋の隅でうずくまるシスターと子供たちを見つけた。
「シスター! みんな!」
「ジャンゴさん!」
ジャンゴはシスターたちに駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「はい、何とか……何人か軽い火傷を負いましたが、全員生きてます」
「そうか、良かった……今助けるからな!」
シスターは首を振った。
「しかし、部屋の外には火が回って…煙もじきにここまで来てしまいます…!」
「いや、大丈夫だ。俺に任せろ!」
ジャンゴはそういうと、上着のポケットの中から、折り紙を取り出した。
「……?」
シスターが不思議そうに折り紙を見つめる。
ジャンゴは折り紙に何かを書くと、それを鶴の形に折り、右手に乗せて軽くを力をこめた。
「あ………!」
シスターは驚きのあまり声を上げた。
折り紙の鶴が、空中で羽ばたいていたからだ。
「頼むぞ」
ジャンゴが右手を振ると、鶴はそのまま部屋の外に飛んでいった。
シスターと子供たちがその様子にみとれる間もなく、ジャンゴはまた右手に力をこめ始めた。
「アイスウォール!」
今度は右手を直接床につける。
すると何もない地面から、突然その場にいるすべての人間を覆うように、氷が生えてきた。
「…………」
シスターは何が起きているか理解できず、呆然としている。
その顔を見て、ジャンゴはいたずらっぽく笑った。
「俺、アルケミストなんだ」
ナーシャは教会の外で待っていたが、一向にジャンゴが帰ってくる様子がないので、徐々に不安が募ってきた。
(ジャンゴ……大丈夫かな?)
不安はほどなく限界に達した。もともとナーシャはあまり気の長いほうではないので、自分も教会に突入しようと決断するのに時間はかからなかった。
「よしっ…! て、あれ?」
ナーシャが教会に突入しようとしたとき、炎の中から、何かが飛んできた。
よく見ると、それは折り紙の鶴だった。
「ジャンゴ………!!」
ナーシャは急いで鶴をつかみ、折り目を広げた。
折り紙には『水をぶっ掛けろ』と殴り書きのようなメッセージが書かれていた。
「相変わらず下手な字だね………了解!」
ナーシャは折り紙を放り投げると、両手を天に突き上げる。
持てる力のすべてを、両手に集中した。
そして、溜めに溜めた力がついに最高に達する—
「ウォーターフォールっ!!」
空中で発生した巨大な水流が、教会をあっという間に飲み込んだ—