ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 空響 −VOICE− ( No.14 )
- 日時: 2011/12/03 09:30
- 名前: 栗鼠隊長 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)
- 参照: 旬 だけど 。
館内での石灰色とは別の、白い色をした外壁。ジュリオの目の前にあるのはその白い石壁だけで、中から見たのと同様、窓など一つもなかった。
「ジュリオ・ミ・ザーズン。おまえの名前はこれで合っているか?」
「は、はい」
「そうか、では入れ」
そう言われ、ジュリオは目の前で開いた扉を潜った。
「——え?」
天井からは煌々と、太陽の如く輝くなにか。その下にはスクスクと育っている……や、野菜!?
「あの。こ、これは……?」
どこからどう見ても自家栽培に見えてしまうこの部屋は、きっとお偉いさんの司令室なのだろう。中央には立派な椅子に座った威張り姿の若い男がいた。
「自家栽培兼、司令室だ。食の有難味を兵士どもに分からせてやるためという目的の上だ」
「へえー、そうなんですか」
軍事施設でこのような対策が行われるのはよいことだろう。
「そしてあちらに座られているお方こそ、ゼビラ航空基地の総司令官、マッカーシー総司令官だ」
ジュリオを連れてきた男が示した方向には、立派な椅子に腰掛けた若男が。
「ジュピタ君、ここまで連れて来たまえ」
「はっ」
ジュリオの両手を雁字搦めにすると、ジュピタ君と呼ばれた男は若男の前まで歩み寄った。
「よい、下れ」
「はっ」
ジュピタは踵を鳴らして敬礼したあと、そのまま退室した。
「ジュリオ・ミ・サーズン。君はアニュメンダ浮遊島に住んでいる者かね?」
「……は、はい。しかし我々はそれをアニュメンダと称さず、プロンダ空島と……」
「あぁ、そういえばナタリが言ってたな」
うーん、と若い仕草で淡い栗色の髪を撫でつけ、総司令官は続けた。
「まあよい。とりあえず、自己紹介がまだだったな?」
「は、はい」
「私はセビラ航空基地の総司令部総司令官をしている、マッカーシーだ。ここの最高指揮を任されている。よろしく」
総司令部総司令官、更にはセビラ航空基地の最高指揮を任されているときたもんだ。ジュリオは半分腰が抜け、逃げ腰になった。
「あ、はい。よろしく……です」
「まあ堅くなんなって、こっち来いよ」
マッカーシーは傍らの小テーブルからグラスを手に取り、何やら怪しげな紅の液体を中に注いだ。
「飲め。カプタールを代表するワイン、徒琴だ」
「わ、わいん……?」
「なんと、ワインを知らないやつがいたとはなあ。わはははははははははッ」
ワインのことを知らないようすのジュリオを見て、マッカーシーは盛大に笑った。
「す、すみませんっ、すみませんっ」
「いいのだよ。さ、それよりも早く飲め飲め!」
気前がいいのか、大口を開け、楽しそうにジュリオにワインを勧めた。
「はぃう……では」
「んむ。乾杯っ」
「か、かん……ぃ」
腕を盛大に振り上げ、ワインが飛び散るほどに勢いよく乾杯をした。
腕につけられた無数のリングがジャラジャラと鳴る。
「こぷこぷ……」
仄かな香りが鼻腔いっぱいに広がる。
「……ふんむぅ」
初めて飲むアルコールの味、初めて嗅ぐアルコールの匂い。目が廻るような感覚と共に押し寄せるのは、睡魔。
——眠い。
「ははは、ジュリオ君。美味いかね? そうだ、君に確認したいことが幾つかあるんだよ」
無意識に視界が暗転しそうな強烈な眠気。ジュリオの視界は次第に狭まり、意識もはっきりとしなくなってきた。
「あ、のぅ……。眠いんれふけろ……」
呂律も上手く回らない状態。
パリーンッ——
手から滑り落ちたグラスが、儚く砕け散る。
「……ちょっと効きすぎだったか。まあいい。ジュリオ君、相談だ。いや、取引をしよう」
——取引?
「交渉、とでも言おうか。君の残してきたお姉さんたちには一切手出しをしない。その代わり、君の身体をくれるかね?」
——僕の、身体。それは……、
「ら……らめれふ……」
「ほう……。断る、とな。しかしジュリオ君、あれだぞ? 君が断れば、我々は他の、君のお姉さんなんかにも手を出そうかと考えているんだ。それでも断ると言うのかね?」
——いきなりなんなんだこの人は。卑怯なこと言い出して……。
「不条理……ら……」
——。
重力をいつもより強く感じたあと、ジュリオの意識は飛んだ。
「まあ、交渉成立でいいよな」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべたマッカーシーは、ジュリオの身体を蹴り飛ばした。
「連れて行け。今夜中にも人種の特定を急げ」
「はっ」
傍らに棒立ちしていた数名の部下が踵を鳴らし敬礼をしたあと、ジュリオを引きずり部屋を出て行った。
あとに残ったのはマッカーシー一人と、割れたグラスが一つ……二つ?