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Re: 空響 −VOICE− ( No.6 )
日時: 2011/10/29 20:13
名前: 栗鼠隊長 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)
参照: http://www.kakiko.info/bbs/index.cgi?mode

日が暮れ、涼しくなってきた頃。

「いい? せーので引き上げるよ? ……せー、のっ、んっ」
「ぬうぅ」
「えいっ」

ズズズ、と鈍い音をたて、偵察機ピアトラは少しずつ持ち上がる。
右翼全体が崖へと乗り出しているため、少々引き上げるには時間がかかるようだ。
ずるずると引きずられ引き上げられ、多少の傷を負うナタリの愛機。
……仕方ない、か。
愛機が傷つくのは嫌だけれど、こうでもしなければ引き上げることは不可能だろう。それに乗って帰ることができれば、偵察機ではなく身の軽い戦闘機に乗れる。

「もうちょっと……。いくよ。せー、のっ、んっ」
「うぐぐっ」
「んぬっ」

ズズリ……。
不快な音をたて、偵察機は引き上げられた。
この頃にはもう日も沈みきっており、傷だらけの偵察機たちを照らすのは月光のみとなっていた。
空を仰げば満天の星空。

「あぁ……、綺麗……。こんなにも沢山の星が……」

初めて見る光景に、ナタリはただただ心を奪われるばかりだった。
故郷ではこんな景色、見られるものではなかった。地上に輝く街明かりが星の輝きを阻止し、一度も見たことがなかった星空である。

「でしょ。夜になるとね、星は、すごく綺麗に瞬くんだよ」
「ほんと、すごく綺麗……」

瞬きするのさえ惜しいくらい、それくらい、ナタリは綺麗だと思った。

「ねえナタリ。一つ、質問してもいい?」
「どうぞ。一つなんて言わないで幾つでも聞いてちょうだい」

三人はすっかり打ち解けたらしく、会話も軽く楽になっている。

「あなたは一体どこから来たの?」
「あっ、それ僕も聞きたいと思ってたところなんだ」
「えー、聞くの? まあいいよ。うん、話してあげる。私が産まれたのはコクレツカ諸国っていう、小さな地域なの。そこでいろいろとあったんだけど——」

三人の語らいは夜更けまで続き、次第に眠気に襲われ始めた頃。

「そうだ、燃料補給しなきゃ帰れない……」

ナタリは帰るという第一の目的思い出し、呟きだした。

「ネンリョウ? なにそれ」
「これを動かすためのエネルギーみたいなものよ。この島にはあるかしら?」

キョロキョロと見回して見るものの、ありそうでない。

「私たちがトラクターを動かすために使っている液体ならあるけど……」
「あるのっ?」
「え、ええ。それで動くかは分からないけど、やってみる価値はありそうだわ」

もしかしたらそのトラクターを動かすために使っている液体とやらが、この偵察機に合う可能性もある。
——欲しい。

「それっ、少しもらえないかしら?」

勢いづいた調子で、ナタリはクレロッタに詰め寄る。
その横では、ジュリオが心地よさそうにすやすやと寝息をたてている。

「いいわよ、まだ沢山あるし」
「ほんと!? あ、ありがとうクレロッタ!」
「ええ……。もう入れる? すぐに準備できるけど」
「お願いするわ!」

跳ねて喜ぶナタリと準備に取り掛かろうとしているクロレッタが、再び顔を出した朝日に照らされた。