ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 空響 −VOICE− ( No.9 )
- 日時: 2011/11/09 17:46
- 名前: 旬 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)
- 参照: 名前をちょっともどしてみた。だけ。
ここはどこだろう。
ジュリオは今、暗く狭い、ひんやりとした石の壁に囲まれている。
あの後わけも分からず連れてこられたのが、この寂しいところだった。実に質素で必要最低限以下のものしか置いていない。
テーブルもなければ窓もなく、ベッドもトイレさえも見当たらない。果ては敷居さえもなかった。狭苦しい部屋を見渡して目に付くものと言えば、一枚の薄い毛布と石の壁のみだった。
光がないせいか、どうしても湿気が溜まりジメジメとした空気が充満している。
「はー……」
季節が季節ではないのだが、なぜかここは寒かった。床までもが石でできているからだろうか。四方八方、灰色の石壁。唯一見える壁の外は檻で飾られ、手や足しか出せそうにない。
——と、檻の向こう側から声がした。
「おい」
はっと顔を上げてみるとそこに、先ほどここへ自分を入れた男が立っていた。
「来い、おまえには別の部屋が用意されている」
ジュリオの返答も待たず、男は檻の鍵を開けた。
ギイィ、と不気味な音が響く。
「早く出ろ」
出るようにと促され、ジュリオは恐る恐るそとへ踏み出す。ここから出たいと思っていたとはいえ、外に恐怖心を抱いたジュリオの足取りは重かった。
ナタリと別れさせられた後にここへ来たはずだが、記憶がない。ジュリオは自分がどうやってここまで連れてこられいつ頃ここへ入ったのか、一切覚えていなかった。
——ショックを受けたせいの、記憶喪失か?
とも思ったものの、どうやらそうではないらしい。ジュリオの動物的勘が、それを教えた。
「手を出せ。これを付ける」
そう言って男が差し出してきたものは、鉄でできたブレスレット——否、手錠だった。
「なんですか? これは」
だがジュリオは無知な故、手錠のことを知らない。言われるがままに手を差し出した。
カチャン。
「え?」
手錠が腕に付けられると同時に、ジュリオの手から自由が奪われた。
「説明はいらないだろう。これは手錠だ。おまえは自由ではない、ということが分かっていれば手錠の意味などどうでもよい」
「な、だから手錠って……」
「黙れ。静にしていろ。騒ぐと俺が……」
男はジェスチャーをしてみせる。
「こう、だ」
指先まで伸ばした刃物に似せた手を、首の辺りでシュッと軽く振った。
「んなっ!?」
「ま、そういうことだからよ。静にしててくれよな?」
「……ハイ」
重く続く沈黙を引きずり、二人はこれまた石でできた階段を上って消えた。