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Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.142 )
日時: 2013/02/22 20:41
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: TQfzOaw7)

第十八話 それでも赦さない



「さぁ、舞台は整った」


一人の少女が微笑んだ。
その笑みは全てを魅了し、同時に恐れさせるだろう。


「最強の国と自惚れている屑共よ・・。自らの保身しか考えぬ雑魚共よ・・・。わたしの手の上で踊れ。そして潰しあうがいい」


フードを邪魔だとばかりに脱ぎ捨てる。
フワリと肩にかかる柔らかな髪。


「“私”のために・・・消滅すればいい」


ふと、寂しげな色が瞳に宿った。


『一人で寂しくて、泣くような、そんな子がいなくなればいいのにね』


「・・・」


すぐ傍で囁かれるような言葉。
少女、風羽は目を瞑った。


『みんなが笑いあえる・・・そんな世界を、私は創りたいの』
『お前なら出来るさ』
『先輩なら大丈夫。私も手伝いたい!』
『はい。共に創りましょう。傍でお手伝いいたします』


たった四人で始めた研究。
それが大きな成果を出して、国から認められて、世界へと廻って・・。


『これは使える!大量生産を頼めるか?』
『何を言うのですか・・・?これは、世界を救うための・・』
『天才的な頭脳を持った博士よ・・。お前は何も分かってはいないのだな。これがあれば我が国は最強だ!』
『そのように使うものではないのです!どうか、分かってください』


必死に説得を試みても、拒否された。


『戦に使おうなんて・・。私は・・ただ、みんなが笑ってくれれば・・・』
『姉さん・・・』


一人で絶望して、弟は泣きそうな顔をしていた。


『命令されたことだけをすればいいのだ!』


叩かれて殴られて、弟を人質に取られて初めてあの人は承諾した。


『素晴らしい・・・これは“人間兵器”だな!』
『そんな名を付けるのですか!?』
『うるさい。貴様はただ製造していればいいのだ』


悔しくて苦しくて。
だからあの人は決意した。


『私のせいでこんなことになってしまったのです・・。私が責任を取ります』
『姉さん、何処へ行くの?』
『紫羅季・・。あなたは一人ではありません。自分の信じた道を進んでください。傍には必ず、私たちがいます』
『先輩・・・』
『彩女。誰かを憎んでも恨んでも、復讐を考えてはいけません。あなたは芯が強くとても優しい子・・。私の誇れる後輩です』


あの人は微笑んだ。
対する弟と後輩は泣きじゃくった。


『シェーミ。私のあとを頼みます。真っ直ぐに突き進んで壁に当たっても、あなたなら必ず越えられます。あの四人をよろしくお願いしますね』
『は・・博士・・・っ!』
『遥・・・』
『・・・なんだ』


最後に幼馴染に声をかけた。
あの人は泣いていた。
彼も苦しそうに顔をゆがめていた。
弟を抱きしめて、あの人は言葉を紡いだ。


『真実は時にひどく残酷です。どうか、彼らが真実を悟らぬように・・・。私のせいで犠牲となった彼らに平和を・・・』


祈るように、声を絞り出す。


『だから・・・遥・・・・決して・・真実を言わぬように、お願いします』
『・・・人間兵器の製造理由のアレが起こってもですか?』
『ソレが起こらないように・・・・こちらでも手を打ちます』
『・・・数人、紛れ込ましているのですか』
『はい・・・私の意思を受け継いでくれた子たちが・・・』
『・・・では、従いましょう』


あの人はにこりと微笑んだ。


『お願いします、遥』



目を開ける。
青い空が目に入った。


「・・・わたしは“私”になれないし、“私”みたいに綺麗な心を持っていません」


誰かに語るように言葉を紡ぐ。


「・・・・けれど、あなたの願いは・・・・・わたしの使命です・・・」


グッと拳を握り締める。


「・・・・・・・・・争いを引き起こしても、人間兵器は参加させません・・・・」


『争いは・・・無となるだけ・・・』


「それでも、わたしはあいつを赦さない」


それだけは譲れない、というように強くいいきかせる。


風がそよそよと木々を揺らした。