ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.146 )
日時: 2013/03/08 18:59
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: TQfzOaw7)

第二十二話 小宮


ニコラス・フラメルという人間兵器が生まれたのは冷たい水の中だった。
目を開ければ、白い服が目に入った。
ぼんやりとした意識の中で、喜ぶ声がしたのをニコラスは覚えている。


『成功だっ!』


心底嬉しそうな声が耳に届いた。
その理由は知らなかった。
ニコラスはただ眠りたかった。
温もりと懐かしい甘い香を無意識に求めながら、もう一度目を瞑った。









それから何事もなく年月が過ぎた。
ニコラスの体は普通の人間の子供のように成長していった。
知能も発達し、運動能力は人間の大人を超えていた。
素晴らしい成長を遂げたニコラスに、周りにいた白い服の大人たちは「すごい、すごい」と褒め称えた。
別に悪い気はしなかった。
逆に嬉しかった。

ある日、白い服の大人に連れられて小宮へやってきた。
牢屋というものがそこにはたくさんあった。
拘束されている自分と同じ年頃の子供たち。
白い服の大人をその様子を見せてニコラスに言った。


『君は特別なんだ。この子たちの中から選ばれた特別な存在なんだよ』


ニコラスは嬉しかった。
自分は特別だ、といわれたのだ。
その辺は年相応の子供だった。
それが自分を操る糸だと、その時は気付かなかったのだ。

その日から、小宮へ行くことを許された。
ただし、白い服の大人が必ず一人付いてきた。
ニコラスは別に構わなかったし、白い服の大人は自分を甘やかし大切にしてくれるので好きだった。


『・・あれ?』


首をかしげた。
はぐれてしまったのだ。
決して広くないこの小宮で、なぜかニコラスは白い服の大人と離れてしまった。
急に心細くなった。
傍に必ず誰かがいたのに、とニコラスは泣きそうになった。
その時だった。
フワリと鼻をくすぐる香がした。
甘い匂い。
ニコラスは一度だけかいだことがあった。
これは“花”の匂いだ。
白い服の大人がこの前持っていたのを見せてもらったとき。


『・・・花・・』


その花の匂いにつられるように、ニコラスは足を進めた。

やがて突き当たりにやってきた。
でも壁からその匂いはする。
ニコラスは唾を飲み込んでその壁に手を当てた。
途端、ガラガラと音を立てて壁が動いた。
驚いてその場から飛びのくが、意を決してそこへ足を踏み入れた。


奥へ奥へと進むと、光が見えた。
とても小さな光だ。


『誰か・・いるの?』


小さく尋ねると、息を詰めた音がした。


『・・誰?」


もう一度問う。
近寄れば、その姿が見えた。

腰まである灰色の髪と、伸ばされた前髪から覗く血のような赤と不気味な紫色の瞳。


『・・・君は・・・』


すぐ近くまで寄れば、その子供は怯えたように身をすくめた。