ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.173 )
- 日時: 2013/04/26 20:39
- 名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: TQfzOaw7)
第三十二話 博士になった理由
茨黒もヒストラも幼いながらに立派な博士。
それも“天才”と謳われる実力を持つ。
「ねぇ、帝爛。茨黒はウチより餓鬼ぃ」
側にいる青年、帝爛に声をかける。
にこり、と微笑が返って来た。
それはつまり、肯定。
クスクスとヒストラが笑う。
「あの、ヒストラ・・・」
綾音がおずおずと声をかける。
「ダメだよ、扇さん。この二人に口出しはしないほうがいいよ」
スッと目が細められる。
桜は綾音に目を移す。
「あの魔神さんや伝説の博士の再来と言われるくらいの神童なんだよ。出鱈目に触れてはいけないもの、なんだよ」
16歳の少女とは思えぬほど落ち着いた口調。
綾音は静かにうなづいた。
「君にどう思われようが、別に気にしません」
「ふぅん?」
くりん、と首をかしげて笑う。
「・・・なんですか」
じっと見つめてくるヒストラに、茨黒は顔を向けた。
「茨黒はさぁ、なんで博士になったのかなぁって疑問に思っちゃってね」
帝爛の膝の上に乗り、胸に顔を摺り寄せる。
それはまるで子猫が親猫に甘える姿のようで、微笑ましい。
「僕が博士になった理由を聞いても、君にメリットはありません」
クッキーを口に放り込む。
「『しーちゃん』は優し過ぎたから博士には向いてないと思うんだぁ」
聞きなれない言葉に綾音とアリス、そして桜は首を傾げる。
しかし、茨黒は違った。
明らかに今までとは違う反応を見せた。
無表情だった茨黒の表情が一変した。
「・・・」
ヒストラを睨みつける。
そんな茨黒の表情は初めて見た。
綾音も、桜も、博士同士で報告会にも度々出席していたが、初めて見る表情。
アリスは敏感に茨黒の雰囲気が変化したのを感じ取った。
明らかに、二人の間の空気が変わった。
それは人間兵器であるアリスにしか分からなかった。
綾音も桜も、ただ温度が下がったようにしか感じ取れない。
「ヤだなぁ、そんなに睨まないでよぉ」
「・・・プリンセス」
嘲るようなヒストラの言葉。
小柄なヒストラの体がスッポリと覆われた。
帝爛が抱きしめたのだ。
ヒストラを優しく包むように、そして、茨黒から守るように。
帝爛はあくまでヒストラしか見ていない。
「帝爛?どうしたのぉ。ウチは茨黒には負けないよ」
クスクスと可笑しそうに笑うが、嬉しそうだ。
「・・・なら君は何故博士になったんですか?心が無かった『ヒス』?」
キンッと何かが壁に当たる音がした。
アリスは綾音を守るように背中に庇っている。
桜は何が起きたか分かっていないようで、眉をひそめている。
茨黒の後ろの壁にナイフが突き刺さっていた。
ケーキを切り分けるのに使ったナイフだ。
「危ないですね」
「次は、ない」
低い声が帝爛からもれる。
初めて茨黒を真正面から見据えている。
帝爛はヒストラを抱きかかえながら、茨黒を睨みつける。
茨黒はそんな帝爛には目もくれず、ヒストラを見つめている。
「・・・お前、本当生意気」
ヒストラの表情が一変した。
憎々しげにつぶやき、帝爛の首にすがりつく。
「帝爛がここまで怒るなんて珍しいんだぁ」
静かに語る。
「扇さん、ウチはこれで帰るね?空気、悪くしちゃってごめんなさい」
くるり、と綾音のほうを向いたヒストラの表情はいつも通り。
ニコリと可愛らしく微笑んでいる。
「え、あ・・・あぁ・・。構いません。また良ければいらしてくださいね」
少し戸惑ったが、すぐに微笑を返す。
ヒストラは笑顔でうなづいた。
「えっと、アリス、ちゃん?あなたもゴメンネ。あと神埼さんも」
「あ、うん・・・。私は平気だし・・・綾音ちゃんも・・・」
「う、うん。ま、また今度の報告会とかで」
帝爛に抱きかかえられてヒストラは研究所から去って行った。
「・・・」
去り際に、茨黒とヒストラはお互いに睨み合った。
それに気付いたのは、帝爛だけで・・・。