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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.189 )
- 日時: 2013/05/07 19:07
- 名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: TQfzOaw7)
第三十六話 精進
ふぅ、と息をつく音。
ここは博士の私室。
研究所のとある一室。
白と黒でまとめてある部屋の中はシンプルだ。
ベッド、ソファ、冷蔵庫、テーブル・・そして研究成果の報告書や人間兵器たちのデータ。
「・・・結局、今日も喋ることは・・できなかった・・」
しょぼん、と明らかに肩を落とす。
ベッドに腰を下ろして髪を結っていた紐を解いた。
ふわりと髪が手に掛かる。
薄い勿忘草色の髪はふわふわと柔らかい。
長さは腰まであるだろう。
物静かで大人しそうな雰囲気を纏い、どこか儚い印象を受ける。
それは伏せ目がちな瞳のせいか、細身で小柄なせいか。
瞳の色は鮮やかな蜜柑色。
「・・・」
ふと、テーブルの上においてある写真に目を留める。
まだ研究生だった頃。
当時の博士が写っている。
穏やかな笑みを浮かべている白髪の老人と不敵な笑みを浮かべている青年の二人。
青年の姿を指先でなぞって、照れたように微笑む。
「あの頃から私はあなたを・・・」
言いかけて口をつぐむ。
フッと自嘲気味に笑う。
首を横に振って写真を置く。
「・・・女々しいです」
下を向いて、深呼吸をする。
「・・・私は博士。この国のためにも・・精進しなければ・・・」
白衣をベッドの上から取り、サッと袖に腕を通す。
今、この場にいるのは先ほどまでとは違う、一人の博士だ。
「萌黄、私が留守の間の報告を。60字以内で述べなさい」
扉を開け、研究室へと進みながら言い放つ。
「はい」
いつの間にかその歩みに合わせて眼鏡をかけた一人の研究生が隣に。
「甘藍博士」
蜜柑色の瞳が輝きを増した。
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