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Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.196 )
日時: 2013/05/28 21:02
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: lgK0/KeO)

第三十九話 痛い視線



それは酷くゆっくりと流れた。

目を開ければ、いつもの顔ぶれともう一人。
懐かしくて、人間の頃に持っていたであろう言い表せない感情があふれ出る。

「ばい・・う?」








「え?」

奇跡は首をかしげた。

確かに、彼は自分に向かってつぶやいた。
誰かの名前だろう。
しかし、自分の名前とはまったく違うし自分に兄弟もいない。
というよりも、彼のことを知らない。

「えと、君は・・誰?」
「・・・え?」

少年は眉をひそめた。

「・・どうかしたの?」

舞異舞異が少年の顔を覗き込む。

「・・・あぁ・・そうか・・・」

ふと、少年の表情に影が出来た。
そしていつものような顔へと移る。

そう、心も感情もない、“人間兵器”。

「守谷泡沫・・・。名前は・・?」

少年が言い放つ。
奇跡はキョトンとするが、すぐに笑顔になった。

「俺はね、キセキ!叶幸奇跡!いい名前だろ!?」
「キセキ・・・」

泡沫がつぶやく。

「よろしくな」

手を差し出す奇跡。
泡沫はその手を見つめ、握り返した。

「よろしく・・」

奇跡はニコリと笑った。

















泡沫が目覚めたのでニィ博士の仕事は強制的に開始となった。
ブツブツ言いながらも目を通す。
奇跡は側で確認された書類のまとめをしている。
その向かい側に泡沫と舞異舞異がいるのだ。

仕事は順調。
この調子ならすぐに終われるだろう、と思っていたのだが。

「・・・」
「・・・・・」

視線が痛い。

奇跡は冷や汗を流していた。
向かい側から穴が開きそうなほど見つめられる。
泡沫の何かを探る真剣な瞳。
舞異舞異の品定めをするような鋭い瞳。

見返すことなど絶対に出来ない。
しかし、無視することもできない。

「・・・えっと・・・」
「どうした奇跡。便所か」

ニィ博士が書類に目を向けたまま尋ねる。

「違いますって・・・」

この空気が分からないのか、と突っ込みをいれたいのをこらえて言葉を返す。

実を言うとニィーアにも当然分かっている。
そして何故奇跡を見つめているのかも理解している。

舞異舞異の品定めするあの目つきは、泡沫が奇跡と会話を、そして握手をしたからだ。
普通、泡沫は舞異舞異やニィーアとしか話さない。
握手に至っては一度もしていない(ニィーアさえも)。
泡沫が興味を持った、もしくは心を開いた人間の品定め。

クッとニィーアは笑う。

「なーに?マスター」

舞異が首を傾げる。
いや、と首を横に振る。
ふぅーん、とつぶやいて舞異はまた視線を奇跡へと戻した。


泡沫が奇跡を見つめるのは過去の事だろう。
ニィーアは泡沫の過去全てを知っているわけではない。
何故人間兵器になろうと思った理由も詳しくは知らない。






ただ、雨に打たれて流れ落ちる水滴の中に、涙を見た。

『・・・世界を滅ぼす力が欲しい』

淡々と語る。

『何故だ』

















『俺を否定した世界に復讐するために』