ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 逸脱の世界deviation worlds ( No.4 )
- 日時: 2011/11/06 21:56
- 名前: 未来 (ID: HhjtY6GF)
僕たちが、どうして非現実的な状況が飛び交う戦場に
歩兵として駆り出されたか
理由は至って簡単でシンプル
僕たち、日本精鋭防衛特殊進撃部隊は
非現実的な力を持っているから
目には目を 歯には歯を
逸脱には逸脱を
第2班の戦闘員である箱丸優は、某ホテルの2階の一室にいた。
埃被ったベットの上に寝そべって、ただボォーっとした表情を浮かべている。
特に考えていることはない。
班結成の日、初めて仲間たちと顔を合わせた時は色々と考えた。
「逸脱の日」を迎えた当初は、1時間1分1秒考えていた。次の行動、何が起こるか、未来は続くのか。
しかし、今は考えることに疲れ果てた。頭を動かせば、目の前で死んでいった者たちの残像が走馬灯のように甦る。
だから、せめて、休息の時は何も考えないようにしている。
「優、入るぜ。」
ドアが軋みながら開くと、ボサボサの髪に眠そうな目をした第2班の通信士である若森大地が入ってきた。
大地は持っていたフルーツの缶とトマトスープの缶をテーブルの上に置くと、ソファーにドカッと座った。
座った瞬間、辺りに埃が舞うが気にはしない。
「大丈夫か。また、未来が見えたか?」
大地の問いかけと共に、優は上半身だけを起こすと、無言で首を横に振る。
「最近はあまり見えない。見えても、ボヤけていて見えづらいんだ。」
優の特殊能力。それは、1分後の未来が見える。すなわち未来視だ。
その能力で、“奴ら”の攻撃や策略を間一髪のところで見抜いて、第2班を支えてきた。
しかし、最近はその能力の調子が悪い。
理由は分からない。ただ、それが原因で未来が怖い。
今までは見えてきた未来。たとえ、1分先でも見えてきた未来。
それが突然見えなくなった。
━もしかしたら、1分後には自分は死んでいるんじゃないか━
この想像が、頭を何度も過る。
17歳の高校2年生には、厳しすぎる現在。
優の鬱屈な表情を見て、大地は罅の入った窓から東京の街を見る。
“奴ら”が地球を侵略して、この渋谷区も姿を変えた。
ネオンで多彩に輝き、若者の集う場所であった渋谷には輝きもなく、人の姿もない。
暗夜に飲み込まれた、ただの廃墟。
月明かりだけが、ボゥッと東京全体……いや、世界を照らしている。
宇宙から見た地球は、今どのように見えるのだろうか。
蒼い海、真っ白な雲、陸、ちゃんと見ているだろうか。
「優、地球は今、宇宙から見たらどう見えんのかな。」
優は大地の問いかけに驚いたが、その偶然に微笑んだ。
大地は微笑む優に疑問を抱いたまま、満月と星屑が散らかる夜空を見上げる。
「綺麗に輝いてるか、それとも、ただのどす黒い球なのか。」
優は大地の言葉に対し、何を答えればいいのか分からない。
「その答えは先にあるのか……」
「違うな。私達が作るんだ、その答えを。」
2人は突然聞こえた声に驚き、肩をビクッと動かして後ろを振り向く。
いつの間にか、ドアの付近に石嶋が立っていた。
「まったく不用心だな。休息は取るのは良いが、もう少し気を引き締めろ。」
「も、申し訳ありません……」
2人が声を揃えて言うと、石嶋は笑みを浮かべてソファーに座った。
「答えは作るんだ。私達で、世界を、人類を、地球を救い、全てを取り戻す。」
石嶋の言葉に、優と大地は目を合わせて、何も言わずに頷く。
そんな3人の会話を、部屋の外の壁に寄り掛かって聞いていた副隊長の西沢洋子は、大きな溜息を吐いた。
長身でモデル並みの姿から、戦えるとは想像もできない西沢は、何もない薄汚れた壁を見ながら呟く。
「甘いよ、あなたたちは………。まだ、ダークマターの力を目の当たりにしてないから………。」
西沢はポケットから折りたたみ式のハンドミラーを取り出し開くと、鏡には西沢と1人の男性が写ったプリクラが貼られていた。
「明人、絶対に見つけるから。」
******
暗夜に包まれた東京の渋谷区に、夜空から青い発光体が3つ降り立った。
「……しかし、本当にいるんですかね?」
「絶対にいる。シー、フルブンス、お前ら絶対にボスに言うなよ。単独行動は本当はダメなんだからな。」
「ん……あ〜、はい。了解です。」
闇から現れた3体の悪魔。
姿は人間だが、どこかが違う。
皮膚は黒ずみ荒れ果て、まるで卵の殻が割れたかのような罅の入りかた。
悪魔という名の ━ ダークマター ━ という地球外生命体。
3体の内、中央にいる頭を包帯で巻き、背中に槍を2本抱えたトレス・T(トリトーレ)・サンタは不気味に微笑んだ。
「行きますか?」
トレスの部下であるシー・ブリッチャーが尋ねると、トレスは首を横に振り、目の前に建つ高層ビルを見上げる。
「奴らは夜が明けると同時に動く筈だ。そこを突く。」
シーの後ろで寡黙なフルブンス・ジェクターは、トレスを見ると謎の笑みを浮かべた。
「猫が勝つか、鼠が勝つか……。」
その時、夜空を光が横切った。