ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 逸脱の世界deviation worlds ( No.6 )
日時: 2011/11/12 19:44
名前: 未来 (ID: HhjtY6GF)







     また、夜が明けた─────。





   逸脱した世界を照らす、乱脈の太陽─────。






「……ぁ。…………ほらぁ!!さっさと起きろ!!!」

埃まみれのベットの上で寝ていた優を、西沢が足蹴りで起こした。
「うっ……もう、朝ですか。」
「夜が明けてる。すぐ出発しないと予定した時間に着かないわよ。」
西沢はライフルを握り直すと、部屋から颯爽と出て行った。
優はベットの脇に並べ置いていたライフルや拳銃、手榴弾を身につけると、背伸びをして大欠伸をした。
あれから大地と石嶋と食べ語り合い、優が寝たのは深夜2時過ぎだった。
寝不足の優は腕時計を一度見て、二度と使うことのないホテルの一室から出て行った。

 ******

エントランスに着くと、すでに準備万端の石嶋、大地、西沢の姿があった。
「おぅ、おはよう。」
「大地、隊長、西沢さん、おはようございます。」
優が挨拶すると、大地と石嶋は笑顔で挨拶を返した。しかし、西沢は無愛想に優から視線を逸らす。
西沢は元政府の人間であり、海上自衛隊の少佐である。
そして、世界的にも知られている海上自衛隊軍艦‘英雄’の副艦長である。
軍艦の副艦長に女性が選ばれたのは歴史上初。そのため、西沢は政府全体から期待と信頼を得ていた。

が、それが裏目となり、日本精鋭防衛特殊部隊に選ばれてしまった。

「逸脱の日」を迎えること、そして何が起きるか、政府の上層部の人間だけは知っていた。
勿論、西沢もその内の1人である。
だから特殊部隊結成当初、西沢は他の部隊から軽蔑の眼差しを向けられていたのだ。
真実を知らない者が命をかけて戦う、真実を知る者が全てを理解して戦う。この2つは、大きく異なる。
何も知らずに死んだ者、全てを知った上で死んだ者。この2つも、大きく異なる。
全ての部隊、戦場で戦う兵士たちは、西沢に鋭い眼差しと影で罵声を浴びせた。


だけど、第2班だけは違った。


石嶋は快く西沢に声をかけ励まし、優も暴力的な部分は苦手だが姉のように思っている。
大地と西沢は仲が悪いが、大地は心の底では西沢を仲間と思い、同時に友と思っている。
ぶっきら棒な西沢だが、自分自身が一番理解していた。
今、この世界で、自分の居場所はここだけだと。ここだけが、安心していれる場所だと。

「よし、では行こう。目指すは東京湾にある軍艦‘英雄’。物資の調達とその他調査だ。」
石嶋は3人にそう言うと、ライフルを構えてホテルを出た。
石嶋、優、大地、西沢の順番で出て行くと、建物に沿って目的地へと進む。
足場は不安定なアスファルト、ガラスや瓦礫が散乱している。
たまに、血がこびりついた壁や地面を見るが、「逸脱の日」に入って以来、遺体は見ない。
上を見上げれば、壁にポッカリと穴のあいた高層ビルばかり。
ひどいところでは、建物の上層の部分が下に落下し、道路を防いでいる。
「若森、大体今どの辺を進んでいるか分かるか。」
大地は背中のリュックから地図を取り出すと、地図を見て数秒で即答した。
「渋谷区を抜けて、もうすぐ住宅街に入ります。住宅街に沿って行くと明治通りに出れます。明治通りを進めば、少しは……。」
大地が話しているその時だった。

「ストップ、何か聞こえるわ。」

西沢のその一言で、全員はライフルを構えて辺りを見渡した。
西沢は超聴覚という能力を持っており、人の数十倍の聴覚の持ち主である。
しかし、全員が辺りを見渡すが、特に気配は感じない。
「何の音だ?」
「息を整えてる音……女性のきつそうな声も混じってる…………距離からして、数百メートル範囲。」
石嶋はそれを聞くと、道路に横転していた軽自動車に上り、目を閉じた。
「心の中に話しかけるの?相手がダークマターだったらどうする気?」
「大丈夫だ。あいつらは力のない女性に憑依しない。」
石嶋の能力は精神会話。他者の心に話しかけ、心の中で話すことができる。俗に言うテレパシーでもある。


『誰だ。どこにいる?』


『…………!?……誰……神様?』


『どこにいる?答えてくれ。』


『車の中……リムジンだから…………すぐ分かると思います……。』


石嶋は目を開けると、周囲を懸命に見渡す。
「何か分かりましたか?」
「リムジンの中にいるらしい。結構つらそうな声だった、気をつけて探せ。」
全員はライフルを構えたまま車道に出て、一台一台を丁寧に調べて行く。
数分が経ち、大地の声が閑散とした渋谷の街に響き渡った。

「いたぞ!!」

大地の声がした方へ3人が向かうと、そこには横転して前部分がコンビニに突っ込んだリムジンがあった。
異様な光景に優は一瞬目を奪われたが、すぐに大地の元へ駆け寄り、車内の女性を救出する。
「大丈夫?」
「……腕切ってるだけ………ありがとう…………」
女性は大地の手を掴み、車内から助けられた。
その瞬間、全員は女性の姿に驚いた。


幼く純粋な目、荒れ果てた街に輝く金髪、そして、どこかの学校の制服─────


「ありがとう……ございます…………え……これは……。」
高校生ぐらいの女の子は、荒れ果てた東京渋谷区を見渡して絶句する。
どうやら、今初めて、この世界を目の当たりにしたらしい。
「今まで、気絶、していた、のか?」
石嶋が恐る恐る女の子に尋ねる。
「……はい。突然爆発音が聞こえたと思ったら……車が吹き飛ばされて…………そのあとの記憶は……。」
女の子は辺りを見渡した後、何か思い出したのか、リムジンの運転席の方へ駆け寄る。
「……いない。運転手さんは…執事さんも…………」
女の子は目に涙を溜め、声を殺して泣き始めた。
西沢は3人を見て溜息を吐くと、女の子に駆け寄る。
「大丈夫。生きてるわ。名前はなんていうの?」































     「…渡会………二乃…………」


























  荒野に咲いた一輪の花との出会い───────







             それは、希望の欠片だった─────