ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 消滅ライター ( No.1 )
日時: 2011/11/17 22:21
名前: ハル ◆OI3ln0.NOM (ID: AidydSdZ)

第一話


 ポケットに入れた両手が感じる温もりに幸せを感じつつ、首や顔を突き刺す冷たい風に不快感を覚える。マフラーでもして来れば良かった、と、思った。
 教科書を忘れただとか、筆箱を忘れたとかならまだしも、マフラーを取るためだけに家に戻るのはかったるい。それ以前に、いつも遅刻ギリギリの登校故に家まで戻る時間など何処にも無い。
 彼は小さく溜息を吐き出して、視線を下から上にずらした。
 憎たらしいほど青い空の上を、薄い雲が早足で駆けていく。夏はあんなに低かった空がいつの間にか遠く、高くなってしまっている。此れでは屋上に上って手を伸ばしても、届きそうに無い。
 冬はあまり好きではない。空が高くて届かないし、何より寒いのが苦手だからだ。ああ、早く春が来て欲しい。
 上を見上げたまま、そんなことを考えながら歩いていたら、不意に何かにぶつかった。
 電柱かと思ったが、顔が感じたのは服の暖かい繊維だった。
 慌てて二歩後ろに下がり、ぶつかった相手を見る。

「げ」

 思わず声が出た。
 彼の前に立っていたのは、身長が高くて肩幅が広く、強面の近所でも有名なヤンキーだったのだ。

「あぁ?」

 ヤンキーが低い声で言い、彼を最悪の目つきで睨みつけた。

「ごごごご、ごめんなさいすみません! 許してくださいっ!」

 彼は必死に謝ると、くるりと踵を返して全力で逃げ出した。やべぇやべぇやべぇと頭の中で繰り返しながら、必死に走り続ける。
 それほど体力に自信は無く、運動は中の下くらいの彼に早朝の全力疾走はかなり辛かったようで、一分も持たずに息が切れ、走るスピードがだんだんと落ち、ついに止まってしまった。
 後ろを振り返る。さっきのヤンキーが追ってくる気配は無く、静かな冬の朝の道が続いているだけだった。
 少し引き返してしまったから、登校するのには遠回りになる。時間も無い。最悪の展開だ。
 今度は大きく溜息を吐いて、とぼとぼと歩き出した。