ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 悲哀と世界。 ( No.10 )
日時: 2011/12/03 20:25
名前: 結城柵 (ID: khvYzXY.)
参照: トリめんどいの。

【父親 2】

「それは…本当なのか?優香が、死んだ…?」
「はい」
 狼狽えるおじさんとは正反対に、自分でもびっくりするくらい冷静な僕がいた。
ぼんやりと、セミの声に耳を傾けながらおじさんをみつめる。
 こほん、とおじさんが一つ咳払いをした。
「ところで、だ…竜胆君。十年前のことは…」
 おじさんは、ずっとそのことが言いたかったみたいだ。
おばさんの話はどこへ消えたのだろうかと、僕は小さく笑った。
「忘れてくれ、と?」
「いや…その、すまなかっ」
 おじさんの言葉を遮るように、どこかから、ガラスの割れる音がした。
自分の手元にあるガラスが割れている…つまり僕がやったのだと理解するには、少し時間がかかった。
「ははっ、なにが“すまなかった”んですか?今更ですか?何について謝ってんですか?と、いうより謝る相手、間違えてますよね?
あぁ、それとも。本人や遺族に会うのが怖くて行けませんか?捕まっちゃいますしね?


…ふざけんなよ、クソが」

 ガラスの欠片を首もとに突きつけ、笑顔で言ってやればおじさんは、おびえた表情で僕を見る。
ぞわりと身体が震えて、ガラス片を投げ捨てた。
手は真っ赤に染まって、滴が落ちた。