ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 世界と一緒。 ( No.102 )
日時: 2012/04/14 14:40
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: 一気に更新しちゃいますね。

【とある夏の、とある思い出 4】

「せ、かい……」

 苦痛なのか、なんなのか。きゅぅ、と固くつむられた世界の瞳が、露わになった。そんな彼女を呼ぶ僕の声に、世界は小さく呟いた。

「りん、ど、う……?」

 痛々しいほどにかすれた声は、ぐちゅぐちゅとした汚らしい水音にかき消される。それでも僕の耳は、彼女の声を聞き逃さない。

たすけて。くるしい。どうして?

 そんな、恐怖に満ちた潤んだ瞳が開かれた。彼女は、真っ直ぐに僕を見つめている。
 抱きしめたかった。けれど、動けなかった。触れられなかった。彼女が、触れたら壊れてしまいそうなほど、ひどく儚げだったから。

「き、れ……い……」

 世界のなきごえが耳に響く。鼓膜を震わせる。
 苦しげな表情のままのともだちは、そんな僕を叱咤するかのようにみつめている。

 それでも、口をついて出た言葉。
 くらりくらりと、甘い蜜が流れ込んでくるかのように、思考回路が麻痺していく。
 蝉の声が、ひどくうるさい。